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お次の方ー! ---- 俺、ブラックIT企業の社会人2年目、東京出身。 最近は困ったことに年下の男の子に片思い中。 片思いの相手、バイト2ヶ月目(たぶん近所の大学生)、福岡出身。 元野球部のホークスファンで、背が低いのがコンプレックス。 なんだかんだで20時間労働で朦朧となって帰って来ても、 コンビニの店員さんに癒される日々なのだ。 「今年こそホークスの優勝ばい」 秋山監督だもんな、そりゃ期待するよな。 「あー、のど痛か。昨日腹出して寝たけん」 寝相悪いのか、一緒に寝ることがあったら気をつけてやらなきゃ。 「オレ、煙草吸う子は好かん」 ええい、それなら今日から禁煙だ! 俺はこの2ヶ月間で、聞き耳を立てて店員同士の会話を拾うのが上手くなった。 決して褒められたことでないのはわかっているが、この恋は長期戦なのだ。 立ち読みしてした漫画雑誌をラックに戻し、いつもの品を買い物カゴに次々に入れる。 会計をしている先客の後ろに並ぶと、すぐに掠れた声が飛んできた。 「お次の方どうぞー! お待たせしました」 隣のレジで軽快に手を上げたのは、愛しの彼だった。 スポーツ新聞、週間ベースボール、パックの麦茶にヨーグルト、鶏カツ弁当。 彼が手際よくバーコートを読み取り、袋に詰めていく。 「お弁当あたためますか?」 「お願いします」 家でやってもいいのだが、電子レンジが回ってる時間分、彼の側にいられる。 くだらないようだけど、俺にとってはとても重要なことだ。 「あ、今日はマルボロは?」 なんて気が利く! 彼は俺の好きな煙草の銘柄を覚えていてくれた。 いやしかしここで尻尾を振っちゃダメだ、だって俺は君のために――。 「いいです、禁煙するんで」 途端に彼の目尻に僅かに皺が寄って、幼い笑い顔になった。 「がんばってくださいねー、オレ超応援しますよ」 ああ、この八重歯はやばい。超絶スーパーキュートだ。 「お客さん、どこファンですか? いつも週べ買ってますよね」 おお、決まった物を買って印象付ける作戦が効いていた! アドバイスしてくれた会社の事務の女の子に感謝しなければいけない。 「パ・リーグ好きなんで、日ハムとかソフバンとかの試合良く見ますね」 「マジすか!」 盗み聞きで相手の好みを把握しておく策も成功だ。 これは大学時代の悪友に礼を言おう。 「最近スカパー入ったから、今シーズンから全試合フルで見れるんです」 「うわ、それ良いっすね! うらやましかー」 彼の口から、接客中には決して出さない博多弁がこぼれた。 学生に真似できない経済力を見せ付ける技が、こんなに効果的だとは。 合コン番長の先輩、ありがとうございます。 「あ、すいません。オレつい方言……」 彼が照れた様子で頭を掻いた瞬間、レンジの中から破裂音が響いた。 何事かと驚いたが、俺以上に彼の方が慌てていた。 手荒くレンジを開けて弁当を取り出し、彼は肩を落とした。 「申し訳ありません、ソースの小袋も一緒に温めたので、破裂してしまいました……」 見ると、たしかに弁当のパック全体にソースが派手に飛び散っている。 鶏カツ弁当はそれが最後の一つだった。 自分が買い取ります、それか他のお弁当をお出ししますと彼は必死に言ってくれたが、 好きな子が困っているのを見たら優しく励ますのが男というものだろう。 誰かに教えられたわけではないが、これくらい馬鹿な俺にでもわかる。 「良いですよ、家に醤油あるんで」 「でも……」 「はい、お金ちょうど。レシート要りません。いつもありがとうね」 俺は彼が好きだから、いくらでも優しくする。 割に合わない仕事をして身も心も擦り切れた夜、彼の笑顔がいつも俺を温めてくれた。 彼の気を引くためにちょっと格好つけて去ることは、果たしてどう出るだろうか。 「オレ、生まれかわったけん。昨日までとはちごうとよ」 素のままで十分魅力的なのに、一体彼に何があったんだろう。 「あのお客さんが……って言ったっちゃん」 いまいちよく聞こえないけど、迷惑な客でもいたのかな。 「やけん、初心にかえったと!」 彼らしい前向きな言葉だ。なんだかこっちまで元気が出る。 いつもの商品を持って列に並ぶと、すぐに横から彼がやってきた。 その姿を一目見て、思わずカゴを落としそうになった。 「お次の方、どうぞー」 手を挙げてはにかむ彼は、高校球児のような坊主頭になっていた。 「お弁当温めますか?」 「お願いします」 「はい」 「あの、髪の毛……」 「思い切って短くしました」 「す、すごい似合いますね」 「昨日失敗しちゃったんで、自分なりにけじめをつけてみたんです」 「俺のせい?」 「お客さんのおかげ、ですよ。オレ最近たるんでたんで」 「いや、いつも君はよくやってくれてるよ」 「ありがとうございます、なんか逆に気使わせちゃって」 「俺はただ、その、君が……」 「お客さんにお礼というか、お詫びというか、させてもらいたんですけど」 「そんなのいいんですよ、ホントに」 「一緒に開幕戦見に行きません? チケット奢りますよ」 「え!」 「迷惑だったらいいんですけど」 「ううん、嬉しいんだ、嬉しすぎてもう泣きそう…」 「あはは、お客さんがば面白かぁ」 彼が八重歯を見せて笑った時、レンジがチンと音を立てた。 潔い五厘刈りも、直球のお誘いも、彼がやるとなんでこんなに素敵に見えるんだろう。 鷄カツ弁当のおかげで、ただの客と店員の関係からは抜け出せそうだが、 忘れてはいけない、この恋は長期戦だ。 俺は明日も明後日もコンビニに通い、彼が呼んでくれるのを待つのだ。 いつかこちらから彼に愛を告げ、頷いてもらう日のために。 ----   [[表示名>ページ名]] ----
お次の方ー! ---- 俺、ブラックIT企業の社会人2年目、東京出身。 最近は困ったことに年下の男の子に片思い中。 片思いの相手、バイト2ヶ月目(たぶん近所の大学生)、福岡出身。 元野球部のホークスファンで、背が低いのがコンプレックス。 なんだかんだで20時間労働で朦朧となって帰って来ても、 コンビニの店員さんに癒される日々なのだ。 「今年こそホークスの優勝ばい」 秋山監督だもんな、そりゃ期待するよな。 「あー、のど痛か。昨日腹出して寝たけん」 寝相悪いのか、一緒に寝ることがあったら気をつけてやらなきゃ。 「オレ、煙草吸う子は好かん」 ええい、それなら今日から禁煙だ! 俺はこの2ヶ月間で、聞き耳を立てて店員同士の会話を拾うのが上手くなった。 決して褒められたことでないのはわかっているが、この恋は長期戦なのだ。 立ち読みしてした漫画雑誌をラックに戻し、いつもの品を買い物カゴに次々に入れる。 会計をしている先客の後ろに並ぶと、すぐに掠れた声が飛んできた。 「お次の方どうぞー! お待たせしました」 隣のレジで軽快に手を上げたのは、愛しの彼だった。 スポーツ新聞、週間ベースボール、パックの麦茶にヨーグルト、鶏カツ弁当。 彼が手際よくバーコートを読み取り、袋に詰めていく。 「お弁当あたためますか?」 「お願いします」 家でやってもいいのだが、電子レンジが回ってる時間分、彼の側にいられる。 くだらないようだけど、俺にとってはとても重要なことだ。 「あ、今日はマルボロは?」 なんて気が利く! 彼は俺の好きな煙草の銘柄を覚えていてくれた。 いやしかしここで尻尾を振っちゃダメだ、だって俺は君のために――。 「いいです、禁煙するんで」 途端に彼の目尻に僅かに皺が寄って、幼い笑い顔になった。 「がんばってくださいねー、オレ超応援しますよ」 ああ、この八重歯はやばい。超絶スーパーキュートだ。 「お客さん、どこファンですか? いつも週べ買ってますよね」 おお、決まった物を買って印象付ける作戦が効いていた! アドバイスしてくれた会社の事務の女の子に感謝しなければいけない。 「パ・リーグ好きなんで、日ハムとかソフバンとかの試合良く見ますね」 「マジすか!」 盗み聞きで相手の好みを把握しておく策も成功だ。 これは大学時代の悪友に礼を言おう。 「最近スカパー入ったから、今シーズンから全試合フルで見れるんです」 「うわ、それ良いっすね! うらやましかー」 彼の口から、接客中には決して出さない博多弁がこぼれた。 学生に真似できない経済力を見せ付ける技が、こんなに効果的だとは。 合コン番長の先輩、ありがとうございます。 「あ、すいません。オレつい方言……」 彼が照れた様子で頭を掻いた瞬間、レンジの中から破裂音が響いた。 何事かと驚いたが、俺以上に彼の方が慌てていた。 手荒くレンジを開けて弁当を取り出し、彼は肩を落とした。 「申し訳ありません、ソースの小袋も一緒に温めたので、破裂してしまいました……」 見ると、たしかに弁当のパック全体にソースが派手に飛び散っている。 鶏カツ弁当はそれが最後の一つだった。 自分が買い取ります、それか他のお弁当をお出ししますと彼は必死に言ってくれたが、 好きな子が困っているのを見たら優しく励ますのが男というものだろう。 誰かに教えられたわけではないが、これくらい馬鹿な俺にでもわかる。 「良いですよ、家に醤油あるんで」 「でも……」 「はい、お金ちょうど。レシート要りません。いつもありがとうね」 俺は彼が好きだから、いくらでも優しくする。 割に合わない仕事をして身も心も擦り切れた夜、彼の笑顔がいつも俺を温めてくれた。 彼の気を引くためにちょっと格好つけて去ることは、果たしてどう出るだろうか。 「オレ、生まれかわったけん。昨日までとはちごうとよ」 素のままで十分魅力的なのに、一体彼に何があったんだろう。 「あのお客さんが……って言ったっちゃん」 いまいちよく聞こえないけど、迷惑な客でもいたのかな。 「やけん、初心にかえったと!」 彼らしい前向きな言葉だ。なんだかこっちまで元気が出る。 いつもの商品を持って列に並ぶと、すぐに横から彼がやってきた。 その姿を一目見て、思わずカゴを落としそうになった。 「お次の方、どうぞー」 手を挙げてはにかむ彼は、高校球児のような坊主頭になっていた。 「お弁当温めますか?」 「お願いします」 「はい」 「あの、髪の毛……」 「思い切って短くしました」 「す、すごい似合いますね」 「昨日失敗しちゃったんで、自分なりにけじめをつけてみたんです」 「俺のせい?」 「お客さんのおかげ、ですよ。オレ最近たるんでたんで」 「いや、いつも君はよくやってくれてるよ」 「ありがとうございます、なんか逆に気使わせちゃって」 「俺はただ、その、君が……」 「お客さんにお礼というか、お詫びというか、させてもらいたんですけど」 「そんなのいいんですよ、ホントに」 「一緒に開幕戦見に行きません? チケット奢りますよ」 「え!」 「迷惑だったらいいんですけど」 「ううん、嬉しいんだ、嬉しすぎてもう泣きそう…」 「あはは、お客さんがば面白かぁ」 彼が八重歯を見せて笑った時、レンジがチンと音を立てた。 潔い五厘刈りも、直球のお誘いも、彼がやるとなんでこんなに素敵に見えるんだろう。 鷄カツ弁当のおかげで、ただの客と店員の関係からは抜け出せそうだが、 忘れてはいけない、この恋は長期戦だ。 俺は明日も明後日もコンビニに通い、彼が呼んでくれるのを待つのだ。 いつかこちらから彼に愛を告げ、頷いてもらう日のために。 ----   [[小鳥>15-099]] ----

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