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ふたりだけにしか分からない ----  三人してテレピン油の匂いを振りまきながら帰る道すがらのこと。  道端の電柱に何気なく、一枚のチラシが貼ってあった。  俺にとっては本当にそれだけのことで、けれど先輩方にはそれは、何か心に触れる ものであった、らしい。 「なぁヨシ、これって……なんつーか、アレだよな」 「んー? ……ああ、うんうん。でもお前にとって、だけどな。俺はそうでもないね」 「か? え、てっきりむしろお前にとってのアレだと思ったんだが」 「でもない、ないない。お前向きだよ。俺向きじゃない」  なおも盛り上がるふたりは、完全に歩みを止め、剥がれかけたチラシとツーカーな 会話に夢中。俺ときたら全然それについていけなくて、完全に蚊帳の外だ。何なんだ その『アレ』とやらは。  どうにもついていけなくて、仕方が無いから俺はその場を去った。ふたりは気付く ことなく、俺の知らない次元での話を続けている。どっちかが、というかヨシ先輩くらい は振り向いてくれるかと思ったが、全然そんなことはなかった。  どうにもこうにも、胸がすかすかした。  それがチラシの色彩バランスの話だと聞かされたのは、三ヶ月後。  俺がヨシ先輩に対する恋心に気付く、3日前の話だ。 ----   [[ふたりだけにしか分からない>9-989-1]] ----

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