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息子の友人×父親 ---- 「おとうさんを僕にくださいっ!」 それは我が最愛の息子の、晴れの成人式の日のこと。 本日はお日柄もよく滞りなく式も執り行われ、凛々しい紋付袴姿に惚れ惚れと 息子の健やかなる成長を、天国の妻に報告しようと仏壇に向かって手を合わせた時だった。 先ほど帰宅した息子が、友人と二人で引き篭もった奥座敷から、大きな声が聞こえてきた。 何事かと思い襖の陰から中を窺えば、袴姿の若者が二人向かい合い、 我が息子の親友A君が、畳に頭を擦り付けるようにして土下座をしている。 息子は神妙な顔で腕を組み、そんな彼を見下ろしている。 そして再び、 「おとうさんを僕にください」 今度は噛締めるようにしっかりと、腹の底から響くような頼もしいA君の声。 何か昔のテレビドラマなんかであった結婚を許しをもらいに行くシーンみたいだなと、 少しワクワクしてみたけれど、ちょっと待って?お父さんって俺のこと? 普通「お嬢さん」を「お嫁に」くださいを「おとうさん」に言うのであって、 「おとうさん」が「ください」の対象ってどういうことデスカ? 俺、お嫁に行かされちゃうんデスカ? ちょっと待ってクダサーイ。 私には永遠の愛を誓った人がいるんです。亡くなった妻への愛を生涯貫く覚悟なんです。 いきなりお嫁に来いとか言われても困ります。 そもそも息子の親友A君とそんな関係になった覚えはないのです。 そりゃ彼は、息子がいようがいまいが、毎日のように我が家へ遊びに来ているので、 よく知っているし、既に家族の一員みたいな気持ちはあるけれど、あくまで俺にとっては 息子が一人増えたようなものだというだけで、それ以上の感情などあるはずもなく…。 いやいや、それより、いきなり本人の承諾もなくだね、息子に了解を得に行くのは順序が違うんじゃ? そんな不束者に、大事なお父さんはあげられないよな?息子よ。頼りにしてるぞ、言ってやれ。 「お前の気持ちは知ってた」 張り詰めた空気を割るように、息子が口を開く。 「いつかこんな日が来るんじゃないかと思ってたよ」 えええええ!?そうなんだ!?俺は全然知らないんですけど? 「けど…何から話せばいいかな」 よし、丁寧にお断りするんだ。 親友といえども、大事なお父さんはあげられませんって言え。ガンバレ。 「あれは俺の祖父だ。おじいちゃん。親父はさっきからあそこで、赤くなったり青くなったり  一人煩悶してる挙動不審者」 ああ見えて今年で三十七歳だ。若作りっていうか、精神的にも幼いっていうか、よく兄弟に間違われるよ。 高校卒業前に俺が出来ちゃって、まあオフクロが結構年上だったから何とかなったみたいだけど、 はっきり言って俺もあんまり親父と思ったことないんだよね。頼りないし。ガキだし。 子供の頃から一度もお父さんとか呼んだことないし。呼び捨て。間際らしくて悪かったな。 で、お前が親父だと思ってた祖父だが、十五で親父が生まれたって聞いてるから、まだ五十代だけどさ、 あの人は、お前の手におえるような人じゃないぞ。悪いことは言わないから、引き返せるうちに引き返せ。 化け物みたいなもんだ。男も女も、あの人の毒牙にかかって破滅してった奴を何人も知ってる。 まさか未成年にまで手を出すようになったとは…歳の差なんて関係ないって、まあそうだけど。 ああ、そうだな。もう今日から成人だ。だからもう犯罪にはなんないって、お前は来たわけだ。 でも、一度嵌ったら抜け出せない、底なし沼に飛び込むことになるんだぞ。 そりゃ今は、それでもいいって思ってるだろうけど、それはわかるけど。 親友のお前の背を押すようなことは、俺にはできない。 いや、仲を引き裂くとか大げさなもんじゃなくて、いや、そうなんだけど。 お前は今病気にかかってるんだ。病だ病。だから俺の言うこと聞いとけ。 許してくれないなら駆け落ちするって、馬鹿かお前は。 ああもう、だいぶ毒がまわってるな、もう手遅れか? おぉい、目を覚ませー! ----   [[ふたりだけにしか分からない>9-989]] ----

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