「9-919」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

9-919」(2012/02/09 (木) 20:22:14) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

あやかし×平安貴族 ---- 雨が降り始めた。最初は小粒の雨だれだったが段々と雨脚が強まっていく。 勝利に沸き立っていた周りの人々は、その興奮に文字通り水をかけられたのか、 足早に山道を引き返していく。 しかし、彼――私の仕える主人だけは、その場に佇んだまま動こうとしなかった。 右手に剣を携えたまま、雨に打たれている。 私は主人の元に走ろうとして、一瞬だけ躊躇した。 彼の足元に転がるそれが、また起き上がり牙を剥くのではと思ったのだ。 しかし、すぐにその考えを打ち消して傍に駆け寄る。 「中将様、お怪我は」 訊くと、彼は足元から目を離さず、ただ「ない」と短く言った。 その視線につられるように、私も足元を見る。 それは、漆黒の毛並みを持つ獣だった。今は骸となって地に横たわっている。 大きな体躯をしたそれは山狗に似ていたが、本来は何という獣なのか私には分からない。 宮中に災いをもたらす妖の者だという話だった。 元は獣であっても気の遠くなるような月日を生き長らえるうちに、知恵をつけ 恐ろしい力を振るい、妖の術を使い、ときには人に化けることもあるという。 仕留めたのは、彼だった。 「あまり雨に濡れると御身体に障ります」 それでも彼は、骸から目を離そうとしない。 「…それは、もう事切れておりましょう。心配なさらずとも」 「なぜ此処で待っていた」 「……は?」 「逃げろと、言ったのに」 見れば、彼の剣を握るその手が微かに震えている。 「攫わないどころか逃げもしないとは、お前は本当に…」 意味が分からず、どう返事をしたものかと逡巡していると 彼は顔を上げ不意に「戻る」と言った。 そのまま、私の返事も待たずに歩いていく。私も慌てて後を追う。 「中将様が仕留められたとお聞きになれば、主上は一段とお喜びになるでしょうね」 主人を和ませようとして出た言葉だったが、彼は何も答えなかった。 硬い表情のまま、後ろを振り返ることもなく、足早に歩いていく。 この三日後に、彼が自らの身を湖に投げ出すとは、このときの私には知る由もなかった。 ----   [[アフロ受け>9-929]] ----

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: