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お母さんみたい ---- 「あったかい格好してけよ」から始まり「受験票は?」「地下鉄の乗り換えはわかる?」と続いて、 「切符はいくらのを買えばいいか」に到ったとき、俺は去年のことを思い出していた。 世の受験生は、皆このような朝を過ごすものなのだろうか。 昨日まで散々繰り返してきた会話を、当日の朝の玄関先で再びリピート。 俺、受験二年目ですが、昨年はかーちゃんがこんな感じだった。 そんで、朝っぱらからカツ丼食べさせられて、油に中って、惨憺たる結果を生んだのだ。 そのことについては恨んでいない。むしろ感謝している。 なぜかというと、一年間浪人させてくれた上、都内の叔父さんところに下宿を許してくれたからだ。 「それからこれ、頭痛くなったりしたら飲んで。眠くならないやつだから」 手のひらに錠剤を数粒のせて、差し出すこの人が、俺の叔父さん。 「お腹下したらこっち。気持ち悪くなったらこっち」 まったく、心配性なところも、お節介なところも、かーちゃんそっくり。 かーちゃんみたいだと指摘したら、神妙な顔つきで 「最近自分でも似てきたと思う」と答えたので笑ってしまった。 まあ、血の繋がった姉弟なんだから、似ていて当然なんだけど。 叔父さんは、かーちゃんとは十以上も歳が離れていて、むしろ俺とのほうが歳近く、兄弟のように育った。 高校卒業と同時に、家を出て一人暮らしをすると知ったときは、俺はダダをこねて泣いたのを覚えてる。 会いたい一心から、毎月一度は、電車で一時間ちょっとの距離を一人で訪ねたりした。 そのまま都内に就職を決め、実家に帰ってこないとわかったとき、俺も上京することを決意した。 本当は、大学生になって、近くにアパートを借りるつもりだったのが、浪人という立場ゆえ、 一人暮らしよりは…と、何だか勝手によい方向へ転がって、同居なんて嬉しい状況を手にしている。 おかげでこの一年、結構バラ色の浪人生活を送らせてもらったと思う。 「そんなに心配なら、一緒に行けばいいじゃん。どうせ同じとこ行くんだし」 この人は今、大学の事務で働いている。 俺が去年見事に不合格となり、今年は余裕で合格するつもりの大学だ。 「じゃあ一緒に出ようよ。ほら、すぐ着替えて来い」 「やだよ。今出たら早く着きすぎちゃうもん」 「受験生なら余裕持って出かけるべきだろ!?」 だから、余裕なんですよ。一年も余計に勉強したからね。そんな心配しないでよ。 「そっちが俺に合わせてくれたらいいじゃん」 冗談のつもりで言ったのに、全部真に受けて困った顔なんてされると、もっと我儘言いたくなっちゃうんだよね。 「仕事だもん無理に決まってるだろ」 いい歳した大人が、口尖らせてみせたって…可愛いから。上目遣いとか、可愛いから、やめてください。 あーあ、不貞腐れちゃって…こういうとき俺、どっちが年上かわからなくなるよ。 「いいの?時間」 俺の声にハッとして時計を見ると、慌てて靴を履いて飛び出した。 玄関の扉を開け身体を半分外に出したところで、彼はまた振り返って俺を見る。 まだ何かあるのかー?と思っていたら、扉の閉まる音がして、彼が近付いてきて、 頬を両手で挟まれて、ぐいっと引っ張られたと思ったら、キスされてた。 身長差に加え玄関の段差のため、俺は前屈みでアンバランス。されるがまま口付けを受ける。 ゆっくりと唇の形を確認するように味わって離れていった顔は、それでも名残惜しそうで、 物足りないと、目が、唇が、語っていた。 あーもー、自分から勝手にキスしておいて、そんな顔すんなよな。 もっと色々したくなっちゃうじゃないか。俺、受験生だぞ。 まったく、そういう無意識に甘え上手なところも、かーちゃんそっくりだ。 ま、かーちゃんとはキスはしないけど。 俺はこの人たちには一生敵わないと思うよ。 「じ、じゃあ俺、先行ってるから」 自分の行動に今更、耳まで真っ赤にしながら、彼は俺の目を見て言う。 「頑張れよ」 しっかりと力強く響いた言葉を残して、今度は振り返らず出て行った。 頑張るに決まってるじゃん。 もうアンタにあんな物足りなそうな顔させられないからね。 ----   [[あやかし×平安貴族>9-919]] ----

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