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AV ---- 営業先の社屋を出た所で、先程までの理路整然冷静沈着なON口調とは打って変わって、 唐突にTさんはこう言った。 「評判のAV買ったんだ。すげぇぞ、でかくて興奮もんだぞ。 おまえそういうの好きだろ。見に来ねぇか?」 な、なに?俺、巨乳好きだなんて言ったっけ? そりゃグラビアアイドルの溢れんばかりの乳にはつい目が行くけどさ。 「今日は終わったら直帰するって云っておいたから、これから来い」 女にモテるTさんだってAVくらい見るだろう。そういうのは別腹だもんな。 だけど、女で喜ぶTさんなんて見たくない。見たくないよ。 そう思うのに、Tさんちに誘われたのは嬉しくて、夕飯の鍋の材料や酒を買うTさんの後を、 複雑に入り乱れる心を抱えトボトボとついて行った。 リビングに入るなりTさんは荷物を下ろすのももどかしげに、 「ほら、すげぇだろ」 え?これって…。 「高かったんだぞ、60V型プラズマテレビ」 そこには俺の腰ほどもあるスピーカーを両脇に従えた立派なテレビがでんと置いてあった。 「HDDレコーダーも内蔵してるから、2番組同時録画もできるぞ。ついでにプレーヤーも新調したしな。 それからこれ、後ろにもスピーカー置いてあるからサラウンドで臨場感もばっちりだ」 珍しく饒舌に新しいAV機器を自慢するTさんの言葉も半分しか頭に入らない。 なんだ、アダルトビデオじゃなかったんだ!良かったぁ。 「なんだよ、ぼけっとして。ちっとも嬉しそうじゃねぇな。」 えっ? 「おまえ、この前仕事中に通りかかった電器屋の前で、このでかいのいいっすよね、 映画とか見たら迫力あるだろうなとか、欲しいけど手が出ないとか言ってたろ?」 うん、確かに言ったけど…。 「まっいいさ。飯にすっか」 ふてくされたように言い捨てキッチンに向かうTさんの背中が、 何故かちょっとだけ寂しそうに見えた。 「あのぉ、これ見に来ていいんすか?」 「おぅ、いつでも見に来い」いつもの快活な声が返ってくる。 「好きな映画買っておいてやるぞ」 「え、いやいいっす。レンタルでいいす」 俺がそう言うとTさんはいきなりキッチンから出てきて、ソファに投げ出してあったコートを着ると 「じゃ飯の前にレンタル屋だ。行くぞ」 これから? 一緒に、映画探して飯食って大画面で鑑賞って…、まるで…。 Tさんに聞かれたら笑われるだろう事を一人勝手に思っては嬉しくて、 俺は慌ててコートを羽織り後を追った。 ----   [[明治~大正あたりの雰囲気>9-649]] ----

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