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洋菓子職人×和菓子職人 ---- フランスで厳しい修行を積んだ気鋭の新進パティシエ 今やカリスマ菓子職人、テレビや雑誌の取材も引きも切らない だから、一度テレビで自分の引き立て役のように出演した、 中年の和菓子屋主人のことなど最初は軽蔑していた しかし、偶然付き合いを重ねるうち、なぜか心にその男のことがひっかかっていく 頂点を目指すわけでもなく、ただ淡々と季節の菓子を作り続けるだけ 茶道の名門の茶会でも目指せばいいのに、ちゃらいお茶教室の注文を受けて 今時の女のコが和菓子の美味しさに目覚めるのがいい気分だ、とか言いやがる そんな男の作る和菓子が、しかし、ホントに美味いのだ イライラする  どうしてだよ  この程度の男が ある日、雑誌の取材を逃げ、奴の仕事場の隅っこで茶なんかすすっていた時、 餡を煮ていた奴が、いきなり真剣な表情を作り、しかし退屈な日常会話でもするように、ぼそりと呟いた 「分かっているだろうが‥‥ボクは、本当、君がうらやましいよ」 この期に及んで。したたか殴られた、そんな気分。 怒りが込み上げた。 どうしてだよ。アンタにとって、こんな俺が何様だってんだよ。 俺のことなんか、アンタにゃどうでもいいじゃないか。 俺はこんなにアンタに憧れているのに。 アンタを目指してるのに。 アンタを必要としているのに。 手の中の安物の白い茶碗が、ボヤけて見えなくなった。 同じぐらいボーッとした奴の前で、 俺はたぶん、これだけは奴の優位に立てる見せかけの傲慢な面を作って せせら笑うように、横を向くしかなかった。
洋菓子職人×和菓子職人 ---- フランスで厳しい修行を積んだ気鋭の新進パティシエ 今やカリスマ菓子職人、テレビや雑誌の取材も引きも切らない だから、一度テレビで自分の引き立て役のように出演した、 中年の和菓子屋主人のことなど最初は軽蔑していた しかし、偶然付き合いを重ねるうち、なぜか心にその男のことがひっかかっていく 頂点を目指すわけでもなく、ただ淡々と季節の菓子を作り続けるだけ 茶道の名門の茶会でも目指せばいいのに、ちゃらいお茶教室の注文を受けて 今時の女のコが和菓子の美味しさに目覚めるのがいい気分だ、とか言いやがる そんな男の作る和菓子が、しかし、ホントに美味いのだ イライラする  どうしてだよ  この程度の男が ある日、雑誌の取材を逃げ、奴の仕事場の隅っこで茶なんかすすっていた時、 餡を煮ていた奴が、いきなり真剣な表情を作り、しかし退屈な日常会話でもするように、ぼそりと呟いた 「分かっているだろうが‥‥ボクは、本当、君がうらやましいよ」 この期に及んで。したたか殴られた、そんな気分。 怒りが込み上げた。 どうしてだよ。アンタにとって、こんな俺が何様だってんだよ。 俺のことなんか、アンタにゃどうでもいいじゃないか。 俺はこんなにアンタに憧れているのに。 アンタを目指してるのに。 アンタを必要としているのに。 手の中の安物の白い茶碗が、ボヤけて見えなくなった。 同じぐらいボーッとした奴の前で、 俺はたぶん、これだけは奴の優位に立てる見せかけの傲慢な面を作って せせら笑うように、横を向くしかなかった。 ---- [[背の低い先輩×背の高い後輩>1-159]] ----

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