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男ばかり四兄弟の長兄×姉ばかり四姉弟の末弟 ---- 「駄目だ」 掴んだ腕は、簡単に振り払われてしまう。 「お前には背負っているものがあるだろう」 それでも僕は追いすがる。 離すものかと、両の手で彼の右腕を掴む。 「背負っているのは総一郎さんだって同じことだ。僕も一緒に」 「それは出来ない」 「どうして」 「お前がいなくなったら、家督は誰が継ぐ」 「元々僕には家を継ぐなんて無理です。知っているでしょう、僕は絵描きになりたいんだ」 「……」 「それに、才覚だったら夏子姉さんの方がずっと」 「篠塚の家に、男子はお前だけだ」 突き放すように言われた言葉に、僕は言い返すことができない。 ――嫌だ。 彼に会えなくなるのは嫌だ。 彼が僕の前から姿を消すなんて、耐えられない。 「黙っていますから」 気がつけば、自分でも惨めだと思うほど、彼に縋り付いていた。 「今度の席で初めて顔を合わせた振りをしますから。心の奥底に沈めます。  ……いえ、本当に忘れて貰って構わない。だからどうか」 「無かったことにしたいのか?」 その言葉に呼吸が止まる。 「俺には出来ない」 そう言って、彼は僅かに視線を落とした。 「……もしも」 声はひどく震えていた。 「もしも僕が、春江姉さんの弟でなかったから」 「同じことだ。俺があのひとを裏切っていたことに変わりはない」 一番上の姉を思い出す。綺麗で優しくて気丈な姉。 姉があんな風に泣いているのを見るのは初めてだった。 ――姉を、傷つけたかったわけではない。 「無かったことにはできない。だが、あのひとをこれ以上裏切ることもできない」 確りとした、迷いの無い口調だった。 「うちにはまだ三人いる。俺が消えても、なんとでもなる」 彼は左手でゆっくりと、僕の両手を引き離していく。 空気の冷たさに、指の感覚はなくなっていた。 「しかし騒ぎにはなるだろう。両家に泥を塗った、そのけじめはつける」 「総一郎さん」 初めて出会ったとき、僕が彼を綿貫総一郎だと知っていたら。 抱き合うよりも前に、彼が僕を篠塚冬樹だと気づいていたら。 否、あの晩、僕が自ら打ち明けさえしなければ。 こんなことには、ならなかったのだろうか。 「さようなら」 彼の手は、暖かかった。 ----   [[男ばかり四兄弟の長兄×姉ばかり四姉弟の末弟>9-529-1]] ----
男ばかり四兄弟の長兄×姉ばかり四姉弟の末弟 ---- 「駄目だ」 掴んだ腕は、簡単に振り払われてしまう。 「お前には背負っているものがあるだろう」 それでも僕は追いすがる。 離すものかと、両の手で彼の右腕を掴む。 「背負っているのは総一郎さんだって同じことだ。僕も一緒に」 「それは出来ない」 「どうして」 「お前がいなくなったら、家督は誰が継ぐ」 「元々僕には家を継ぐなんて無理です。知っているでしょう、僕は絵描きになりたいんだ」 「……」 「それに、才覚だったら夏子姉さんの方がずっと」 「篠塚の家に、男子はお前だけだ」 突き放すように言われた言葉に、僕は言い返すことができない。 ――嫌だ。 彼に会えなくなるのは嫌だ。 彼が僕の前から姿を消すなんて、耐えられない。 「黙っていますから」 気がつけば、自分でも惨めだと思うほど、彼に縋り付いていた。 「今度の席で初めて顔を合わせた振りをしますから。心の奥底に沈めます。  ……いえ、本当に忘れて貰って構わない。だからどうか」 「無かったことにしたいのか?」 その言葉に呼吸が止まる。 「俺には出来ない」 そう言って、彼は僅かに視線を落とした。 「……もしも」 声はひどく震えていた。 「もしも僕が、春江姉さんの弟でなかったから」 「同じことだ。俺があのひとを裏切っていたことに変わりはない」 一番上の姉を思い出す。綺麗で優しくて気丈な姉。 姉があんな風に泣いているのを見るのは初めてだった。 ――姉を、傷つけたかったわけではない。 「無かったことにはできない。だが、あのひとをこれ以上裏切ることもできない」 確りとした、迷いの無い口調だった。 「うちにはまだ三人いる。俺が消えても、なんとでもなる」 彼は左手でゆっくりと、僕の両手を引き離していく。 空気の冷たさに、指の感覚はなくなっていた。 「しかし騒ぎにはなるだろう。両家に泥を塗った、そのけじめはつける」 「総一郎さん」 初めて出会ったとき、僕が彼を綿貫総一郎だと知っていたら。 抱き合うよりも前に、彼が僕を篠塚冬樹だと気づいていたら。 否、あの晩、僕が自ら打ち明けさえしなければ。 こんなことには、ならなかったのだろうか。 「さようなら」 彼の手は、暖かかった。 ----   [[男ばかり四兄弟の長兄×姉ばかり四姉弟の末弟>9-529-2]] ----

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