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粉雪舞い降りる夜に ---- 携帯の向こうから聞かされた内容が到底信じられなくて、俺は思わず呼吸を止めた。 耳から入ってくる音の羅列は、脳へと到達しても意味を成してくれない。 人というものは、あまりの衝撃を受けるとうまく感覚器官が働かなくなるようだ、と 俺はさほど長くはない人生の中で初めてそう知った。      *     *     * テレビの中のニュースキャスターは、馬鹿みたいな三角の帽子をかぶってにこにこ笑って、言った。 『東京では本日、夕方から小雪がちらつきだし、七年ぶりのホワイトクリスマスとなって……』 その言葉に被さる様にして、都心のビル街の頭上へはらはらと舞い降りる粉雪の映像が流れる。 「ロマンチックですよねー」「すっごく嬉しいです!」「これからまだ娘のプレゼント買わなきゃならなくて」 インタビューに答える人々は皆一様に幸福そうで、みんながみんな陽気な笑顔だった。 それを目にした瞬間、異様な物苦しさにどくんと心臓が跳ね上がる。 狭心症の発作にも似た身体を締め付ける痛みが、俺の胸を強かに襲った。 逸る鼓動と震える指先を抑え、苛立たしげにパチンとテレビのスイッチを落とす。 静かになった真っ黒の画面をぼうっとした目つきで見つめながら、俺は思わず舌を鳴らした。 こんなの、八つ当たりにすらなっていないと分かっている。 けれど俺は、画面の中で楽しそうにしている人々が腹立たしくて仕方なかった。 「……っ、何だよ。何で、みんな笑ってんだよ?」 理不尽過ぎる。そう頭では理解していても、口を突く言葉は止まらない。 「アイツが死んだのに、何で笑ってんだよ……」 倒れこむようにして床に膝を突く。薄ぼんやりとした思考で、考えた。 ――みんなが幸せな気分になる、ハッピー・ホワイト・クリスマス。 綺麗で幻想的で荘厳な、真っ白でふわふわとした空からの贈り物。 そのせいでアイツのバイクはスリップし、運動神経の悪いアイツは打ち所悪く死んだワケですが、 この世界の99,999パーセントの人にとって、そんなのはどうでもいいような瑣末なことで。 俺にとっての死神が、彼らにとっての幸せの象徴なのだ、と。 そう考えたらなんだかおかしくて、笑いすぎて涙が出た。 ----   [[ライナス症候群>9-389]] ----

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