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札幌×福岡 ---- 「徒歩暴走族っていうの、ほんとうに出ると?」 ネクタイをちょっとだけゆるめてから、差し出された熱燗に目をやる。 うまそうだ。 それにしても、「出ると」だって。そんな言葉、テレビでしかきいたことない。 これ、博多弁っていうのかな。生できけて少し感動してしまう。 「出るよ、出る出る。すすきのとかね、あの辺大声出しながら歩いてる」 出るってなんかそんな、幽霊みたいな言いざまは、ちょっと可笑しい。 そんなことを思いながら答えて、ちびちびと熱燗をすすった。 初めての味だ。地酒なのかな。 お任せで燗つけてって言ったらこれがでてきた。おいしい。 「えー、見てみたいかも。ていうかすすきの1回行ってみたい。 中洲とどっちがおおきい?」 なんて言いながら、彼は無邪気に笑う。 「どっちもいいところだよ」 答えにもなってないような答えを返してしまったけれど、 彼はにっこり笑ってくれた。そんな風に笑いながら、 カウンターの向こうでコテをふるう姿、なんだかいい。すごくいい。 彼の手元、黒光りする鉄板の上では、ホルモンがおいしそうな音をたてている。 いい匂いがする、これはビールの方がよかったかも。 だけど彼の選んでくれたこの酒、これはこれで、とてもおいしいんだからまぁいいか。 「ジンギスカンも1回食べてみたい。ホルモンとどっちがおいしい?おしえてよ」 「どっちもおいしいよ、きっと。」 ふと彼の後方に目を転じると、ネオンやサインが、黒々とした川に 光を落としてゆらゆらときらめくのが見えた。 「なんて川?」 「那珂川。札幌も、川ある?」 豊平川って川の、扇状地なんだよ札幌って。 酒で煽られて、熱くなった頬をゆっくりと押さえながら答える。 「札幌、よかね。行ってみたか」 「本当に、来ればいいのに」 うわ。 ごまかせないほど真剣な調子になってしまった。 もっと軽く、冗談めかしていうつもりだったのに。 思わずうろたえてしまったけど、彼は全然意に介した風もなく、 やっぱりにこにこと笑っている。 ああ、なんだかな。なんだか。 薄い橙の、ちいさな照明の下の彼の笑顔を、そんな思いで眺めた。 その後彼の屋台には、どんどん客が入ってきた。 これ以上の長居は、きっと屋台の美学に反するのかも知れない。 よくわからないけど。 名残惜しいと思いながらお愛想をすませると、彼がカウンタから出て見送ってくれる。 「わ、そんないいのに」 笑って言うと、彼はちょっと迷うような顔をした後 「本当に、行ってみたい、札幌」 さっきの自分に負けないくらい真剣な声で、小さく呟いた。 思わず鞄探って、手帳を引っ張り出す。空いたページに、 携帯番号を書き殴って千切り、おしつけるように渡してしまった。 連絡きますように。 祈るような心地で、キラキラ輝く中洲の街を抜けてゆく。 ----   [[粉雪舞い降りる夜に>9-379]] ----

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