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慟哭
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最低の人だった。
俺のことは、商品としてしか見ていなくて。
「どうしたらあなたがもっと輝くか」とか歯の浮くようなことを、毎日毎日考えて。
俺のために身を粉にして営業して、仕事をひとつでも多く取ってきて。
いい大学出ているのに、中卒の俺の言うなりになって、頭下げて。
俺が仕事が多いからと機嫌を悪くすれば、何時間でも俺のワガママにつきあって。
俺が寝ている間も、経費削減とか言って、衣装をアレンジするのに徹夜したりして。
ラジオの時間姿が見えないと思ったら、車の中で聴衆者のふりして応援メール送ったりして。
「売れないアイドル」だった俺を、「世界一のアイドル」にすると息巻いていた人だった。
「俺のどこが好き?」と聞くと「全部」と言うくせに、俺の仕事しか見ていなかった。
「俺を俺自身として見てよ」というワガママに、いつも困っていた。
俺のワガママで、彼女と別れさせた。俺しか傍にいなくなれば、俺のこともっと見てくれると
思ったから、一人暮らしさせた。無理やり体もつなげてみた。
でもそれら全て怒らなかった。拒否もしなかった。ただ困った顔をするだけだった。
そんな彼に耐えかねて、マネージャーを変えてもらったのが、俺の最後のワガママだった。
彼は嫌がって泣いたと聞いた。
最後に挨拶に来た時も、俺は耳をふさいで顔も見なかったから、彼が最後に俺に何を伝えた
のか、知らない。手紙も渡されたが、破って捨てた。
まさかその彼が、こんなあっけなくいなくなるなんて。
「脳溢血ですって。大家さんが部屋に入ったら、もう冷たくなっていたらしいわ。
…あの病気、若い人もなるものなのね」
新しいマネージャーは、淡々と事実を俺に伝えた。
俺はその間、ただ自分が彼にやったことだけを、考え続けていた。
俺のことばかり考えていた人。彼の手を離したのは俺。
ひとつも本心を見せない人。その最後の抵抗として、傷つけたのは俺。
彼の気持ちばかり気にして、自分の気持ちを伝えなかった俺。
「…一人で逝っちゃうなんて、寂しいわね…。あんな良い人だったのに」
あんなに良い人だったのに。その言葉が、胸を鋭角にえぐった。
信用できないなんて、心底思ったわけじゃなく、ただ否定してほしかっただけで―――
ただ俺のことだけを考えて、愛してると言ってほしかっただけで。
『どうしたら、あなたに信じてもらえるんでしょう。こんなにあなたを愛しているのに』
いつか言われた、彼の困り顔とその声が頭に響いた。
俺は、喚いていた。そうしないと、もう耐えられなかったから
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[[オークション>9-149]]
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