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伝わらないもどかしさ ---- 拝啓 立秋とは名ばかりの残暑厳しき折、我が庭の鶏頭は燃え立つように赤く咲き誇っています。 貴君におかれてはいかがお過ごしですが。暑い暑いと不摂生しておらぬか心配です。 君と別れて半年近くが経とうとしております。 毎日顔を合わせてやくたいもない話をした日々が夢のようです。 新天地の水は体に合いましょうか。つまらぬ女に引っかかってはいませんか。 そちらは風土病もある土地と聞きます。 君は自分のことに無頓着だから、心配しております。 こちらは万事順調です。 僕の仕事は至って好調で、君の手伝いがないことにもだんだん慣れてきました。 君の不在をふと忘れて、あれを取れ、あれはどこだとうっかり独りごちたりするが。 君のほうは順調だろうか。 独り立ちしたばかりの君を助けてやれぬのがもどかしい。 こうして手紙を書いていると、どうにも心配する気持ちばかりが湧き上がってくるようです。 実は、君への手紙を何度も書こうとしました。 しかし、どうしても埒もない手紙になり、書いては捨てました。 今度の手紙もそうなりそうだから、心のままに書いてみます。 こうしていると、君の顔が懐かしく思い出されるばかりで、何か為になるアドヴァイスでもと思うのに何も思いつかない。 いますぐにでも、君と顔を合わせて話をしたく思います。 別れる前の夜、話したことを覚えているだろうか。 満足のいく写真ができたら一番に僕に見せると君は言ったのです。 それまでは泣き言めいた手紙など一切書かないのだと。 武者修行ですから待っていてください、と常ならぬ様子だったのをよく覚えているよ。 馬鹿を言え、一人前になったのに僕を頼ってどうする、と僕は言った。 それでも内心は嬉しかった。僕はこれでも君の才能を認めていたから、頼られるのは面映ゆい喜びだった。 わかったわかった、いつでも送ってきなさい、いつまでも待っているよ、と僕は言った。 どうせ僕は嫁もとらないしこの仕事に一生をかけている。 ついでに君のことを一生涯面倒見ようじゃないか。そう言いました。 君はニコニコ笑ってありがとうございますと言ってくれた。 一年、と君は言った。一年頑張って僕に見せる写真を撮ると。 それまで待っていてくださいと。 僕は君の写真を待ちわびている。 ひとまわり立派になった君を早く見たくてたまらない。 何故、君を思うとこんなに落ち着かないのだろう。 君は僕にいったい何を見せてくれるのだろう。 その時、僕は やはり駄目だ。 こんな手紙は捨ててしまおう。 ----   [[長針と短針と秒針>22-049]] ----

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