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色気のある男 ---- 二重だけどパッチリ系じゃない切れ長の目。 髪は黒髪で、艶があるストレート。仕事では地味な紺のスーツ。中肉中背。 手はきれいかな。細長い白い指をしている。 後ろから耳元で話しかけられるとゾクッとする。なんだっけ、赤い彗星みたいな声っていうの? それが同じ会社の同じフロアにいる三年下のあいつだ。ごく普通のどちらかと言えば地味系に入るやつだが、かなりのくせ者である。 夜の会社のトイレは注意しなければならない。たまにいかがわしい声が聞こえてくるからだ。 夜だからって職場でやるなよ。しかも男子トイレ。AVかよ。 俺は隣の個室で用をすませて、電気を消して出て行った。何かぶつかる音がしたが、多少の嫌がらせは許されてもいいだろう。 そんなことがあった翌日も注意しなければならない。大抵あいつが俺を待ち伏せしているからだ。 「鈴木さん、おはようございます」 「ああ、おはよう…」 すかさず俺に小さい声で耳打ちしてくる。 「この間は見逃してくれてありがとうございました」 「この間も、だ。いい加減社内はやめろ」 「言い出したのは俺じゃないですよ」 「お前が断りゃすむ話だろ」 「断りますけど、向こうがそんな余裕がないみたいなんですよね」 まあ、お前はフェロモンまき散らしてるみたいなもんだからな。 毎回相手は違う。俺が知っているだけでも何人目になるのか。 ふたりだけの残業も気をつけなくてはならない。あいつはやたらと側によってくるからだ。 「そっちはどうですか?終わりそうですか?」 肩に片手をやって、パソコンを覗き込むふりをして後ろから耳元に話しかけてくる。 わかっててやってんだろ。見え見えなんだよ。 「……高橋がさぁ、彼女と別れたって聞いた?」 「へえ、そうなんですか」 「原因作ったのお前だよ?」 「ふうん。もう関係ない人なんですけどね」 サラッと流すコイツは恐ろしい。 「人の嗜好に口出す気はないけど、なんで毎回違う男なの」 「日によってカツ丼を食べたい時もあれば、蕎麦を食べたい時もありませんか?」 「高橋は蕎麦かよ」 「蕎麦じゃないですねえ。強いていうならラーメンかな?」 高橋。お前はラーメンだってさ。安い男だったな。 「男だったら色んなタイプを味見したい。この気持ちわかってくれると思いますけど」 「わかるけど、わかりたくない」 「誓っていいますが、俺からは誘ってないですよ」 「嘘付け。誘ってるだろ」 「違いますって。来る者は拒まずですけどね。自分からはいかない。これは俺のポリシーですから」 これは食べてはいけない禁断の果実だ。俺は絶対に負けてはいけない。 「でも、もうそろそろ主義変えてもいいかなと思ってるんですよね」 両肩にあいつの手が乗るのがわかった。 「鈴木さんって色気がありますよね。男の色気ってやつ」 「なんだそれ」 「我慢できないです」 お前の中で俺は何料理になるんだよ。 聞こうと思ったが、その時にはもう唇はふさがれていた。 ---- [[受けさんはずるい大人です>20-879]] ----

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