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同情でもいいから ---- キッチンというほど広くもないけど、それでも部屋とはガラス戸で区切られている。 けどもちろん鍵なんかかかってないから、結局のところ言い訳でしかない。 その証拠に、戸を開け、薄い布団に潜り込んで取り出したものは、さわる前から立ち上がっている。 「甲野君、駄目。来ないで」 固い声が俺をたしなめるけど、構わず握る。 本気で駄目だと思ってるんなら、蹴り飛ばせばいい。 戸川がいたから俺は駄目になった。 失恋というには客観的にだってひどい仕打ちだったから、だから立ち直れないという甘えに身をまかせた。 半ば当てつけだった。ひとりだったらちゃんと何とかしたんだ。 こいつが俺を病院に連れて行ったり、飯を食わせたり、無くした金をくれたりしなければ。 部屋にひとりにならないよう、と布団を持ち込んでこなければ。 馬鹿じゃねぇの、と罵倒すれば、もう何かを無くすのはいやなんだ、と言った。 それはお前の彼女でしょ? 俺はお前の彼女じゃない。 むしろ憎しみしかない、お前の彼女にも、一緒に消えた俺の彼氏にも。 そう怒鳴りつけたら、戸川は小さな声で「誰かと一緒にいたい」と言った。 何か騙されてるんじゃないか、俺。 この世に、いいひとってのがいるんだろうか。 戸川なんか信じてないから、わざと嫌がることをする。 戸川だって本当は嫌じゃないから、黙って俺にこんなことされてるんだろう。 目を閉じる顔が誰を思い浮かべてるかなんて、簡単に想像がつく。 彼女の腹は俺の彼氏のタネだという。だってこいつら、やってなかったらしいから。 「俺、戸川さんに同情してるの。可哀想な童貞ちゃんだもんね」 わざと強くしごきたてた。確かに経験豊富ではないらしい戸川はあっさりいく。 気持ちよくいったくせに「こんなことは、もう……」と俺の手から逃げる。 「……甲野君は、好きでこんなことしてるんじゃないでしょう?」 ずっと年上のくせに、いつまでも崩さない丁寧な話し方がカンにさわる。 「そんな同情とか僕はもういいから。もう、しないでほしい。お願いだ」 さんざんさせておいた後で、素に戻って説教かよ。 「俺、好きでしてるの。こうしてると彼氏のこと思い出すんだ」 わざと哀れっぽくうつむいてみせると、戸川の顔はこわばった。 俺が同情といい、戸川もまた、俺を憐れむ。 戸川は俺を恐れてしたいようにさせているに過ぎず、俺はただ、彼を追い詰めて逃げ道を塞いでるだけだ。 「……いいじゃん、気持ちいいでしょ?」 冷えた背中を合わせ、苛々と目を閉じる。 最初からあきらめはついてる。 ---- [[さよならの季節>20-819]] ----

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