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兜合わせ
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「それではお二人に兜を合わせていただきましょうか」
チェリー商事の薄田課長が下衆な笑みを浮かべる。
僕の会社801デザイン(株)にとってチェリー商事は大切なお得意様であり生命線。
彼らの命令は絶対と言っても過言では無い。
絶対に逆らえない事を知っていながら薄田は僕と係長に「兜合わせをしろ」と要求している。
なんて卑劣で品性の欠片も無い行為なんだ。
「お言葉ですが薄田課長」
主任が立ち上がって薄田を見据える。
801デザイン(株)きってのキレ者、身長185センチ、鋭く研ぎ澄まされた端正なマスク、
時折見せる優しい笑顔に、女子社員だけでは無く男性社員までもが憧れる存在。
そんな主任といえど、このピンチを乗り切れる術は無いだろう。
主任は薄田のいやらしい視線を挑発するようにベルトを外し下半身を露にした。
僕も覚悟を決めなくては……。
薄田の下品で卑劣な要求に屈するのは屈辱だが「主任とならば」と立ち上がろうとした瞬間、
主任は自らのモノを扱き起立させた。
その光景に一同が息を呑む。
「ご覧の通り私は真性包茎です、残念ながら兜を合わせる事はできません」
冷静かつ堂々とした声に身を震わせたのは僕だけでは無いはずだ。
まるで帝王のような風格。
そうだ主任を征服できる者など誰もいやしないのだ。
さすがの薄田もこれでは手出しはできまい。
「いえ、そういう意味じゃなく、お二人が広告のモデルと背格好が同じなので、
撮影の前に兜を試着して確認をしてくださいという意味です」
薄田は淡々と「兜合わせ」が僕達の勘違いであると指摘する。
「それは失礼、では試着の前に私は勃起しておりますのでトイレで抜いて参ります」
主任はうろたえること無く、スマートにそして優雅に会議室を出て行った。
フルチンのままで。
しかも勃起したままで。
「あっ、あの、僕、手伝ってきます!」
僕の仕事は主任のサポート、どんな時だって後をついていくのは当然だ。
でもそれだけじゃない。
勘違いとはいえ僕を庇ってくれた主任への恩返し?
いや違う、これはきっと恋……。
僕も主任を追いかけて会議室を飛び出す。
「課長、あの人達、大丈夫なんですか?」
「ああ、気にしなくていいよ、801デザイン(株)の人はいつもああだから」
チェリー商事の社員達の呆れたような声が聞こえたような気がしたけど気にしない。
だって恋は暴走機関車。
僕達のラブとレインは誰にも止められないのだから――。
おわり
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