「20-649」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「20-649」(2011/09/30 (金) 22:49:00) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
いまさら言えない
----
「好きだ」
何度口に出そうと思ったか。
でも、お前の想いは知っていたから、言えなかった。
言ってしまえば、優しいお前の事だ…真剣に悩んでくれただろうな。
もしかしたら、身分違いの恋なんて諦めて、俺の傍に居てくれたのかもしれない。
でも、もう遅い。
お前がこの国から居なくなって10年。今日、この国に新たな法律が加わった。
同性同士の婚姻の自由。
記念すべき同性婚第一号はこの国の元王子と、その側近の騎士。
正直、まだ世間の風当たりは厳しい。
心無い言葉で彼らを罵倒する民衆も少なくない。
それでも幸せそうな二人の姿を見て、逆風は収まりつつあった。
ああ、本当に幸せそうで、涙が出る。
悔しいのか?悲しいのか?…分からない。
一つだけ分かるのは、素直に祝福できないという事実だった。
休日、街の市場で最悪な光景を目にしてしまう。
「お!マーロ!久しぶりじゃないか!」
「ああ、こんにちは!マーロ騎士団長」
そこには、市場で仲睦まじく買い物をしている二人の姿があった。
「ああ、どうも」
最悪だ。二人がこの国に戻ってきて数ヶ月、会わないように避けてきたというのに…。
「最近どうだ?騎士団のほうは」
「お前が居なくたって、わが国の騎士団は最強だ」
「そうだな!」
ははっと朗らかに笑う声…ああ、好きだ。
「シオ…騎士団に復帰する気はないか?」
「んあ?」
「最近、近隣の強国が戦の準備を始めていると聞く。
お前の力が必要になるときがくるかもしれない」
「…そうか?俺が居なくてもわが国の騎士団は最強なんだろう?」
「お前が指揮をとれば、より強くなれる」
「……悪いな、マーロ。俺は今まで、確かに国のために全力で戦ってきた。
でも、ホントは国の為なんて建前で俺は…愛する人を守りたかったんだ」
そう言いながら、シオは俺のほうに視線を向けてはいなかった。
その視線の先には、国よりも自分の欲を選んだあざとい元王子。
みすぼらしい格好に落ちたその姿には、かつての王族の威厳など一つも見えなかった。
こんなのの何処が良いんだか…。
「そうか…残念だよ」
俺はそう言うと、彼らに背を向ける。
「気が向いたらまた声をかけてくれ…」
「ああ、またな」
去り際、二人の会話が聞こえてくる。
「今夜は野菜のスープとパンだね」
「すまんな、ニト…俺に稼ぎがあれば…肉食わせてやれるのに…」
「いいんだよ。元々肉好きじゃないし」
「よっし!たまには狩りにでも出るかな!」
「おお!良いね!私も弓の腕前を見せてあげるよ!視力が戻ってから特訓したからね!」
二人の笑い声に、耳を塞ぎたくなる。
喉元まで出かかった言葉…やっぱり言えなかった。
タイミングを逃してしまった以上、多分、もう、一生口には出来ない。
「結婚…おめでとう…」
----
[[探偵と○○>20-659-1]]
----