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やっと追いついたと思ったのに ---- やっと追いついたと思ったら、彼は次に行ってしまう人だった。 自分が四回転に成功したと思ったら、彼は難易度の高い四回転に成功して翌日の新聞に大きく載った。 常に同じ技に挑戦していたから、ファンからは彼の劣化コピーとなじられた。 僕は彼より高い表彰台にのぼった事はない。そして、もうそれは出来ない。 「西谷選手、世界選手権優勝おめでとうございます」 「ありがとうございます」 「完璧な演技でしたね」「イメージ通りに滑れたのは良かったと思います」 「このプログラムは今は亡き佐武選手の代表作と同じ曲ですが、プレッシャーはありませんでしたか?」 「大事な曲なので大切に滑ろうと思いました」 「もうあの難易度のプログラムを滑る選手は日本からは出てこないのではと言われていましたが」 「一つの形に出来た事には満足しています」 インタビューが続いていく。僕の頭の中では昔の彼の演技がリプレイしていた。 彼に追いつきたくて、やっとここまできたけれど。 「西谷選手が感動の涙です!」 叶うなら、もう一度彼と競い合いたい。言葉にならなくて僕はその場に立ち尽くしていた。 ランナーズハイとはよく言ったものだ。 さっきまで併走していたバンから、あと5キロだと叫んでいた監督の声ももう聞こえない。 まだ周辺にいるかもしれないがその周辺が目に入らない。 今どこを走ってるのかわからない。だけど足の裏は地面を蹴っている感覚がある。 俺が止まらずに走っていられるのは、俺より前を走るあいつの存在があったからだ。 昔から気に食わなかった。 中学で知り合って一緒に陸上を始めた。そのときから俺はあいつに追いつけなかった。 一緒に進学した高校では負けじと上位を競った。それでも勝てなかった。 大学の陸上推薦の一枠は、あいつが掻っ攫った。 社会に出ても注目されたのはあいつだ。俺は常に二番手だった。 一度でいいから、追い抜いてやりたい。その一心でここまで来た。 公道から観客の待つ運動場に入る。トラックを一周回ってあいつを抜かせれば俺の勝ちだ。 じりじりと追い上げていく俺と、それから逃れようとするあいつ。 近いはずの歓声はどこか遠いところから聞こえた。 ようやく、あいつの姿が俺の目の前からなくなる。薄っすらと視線の端に入る腕が消えた。 やった勝った! 口元が緩む。俺は嬉しい気持ちで白いテープを探した。が。 『今回はとてつもない試合となりました!ゴール直前の三つ巴戦を制したのは〇〇選手!!』 気づいたら、俺はトラックの内側の芝生に横たわって、興奮した様子のアナウンサーの声を聞いていた。 呼ばれたのは俺の名前じゃない。 あれ? 俺、優勝じゃねえの? だってあいつを抜かし……。 「やっと追いついたと思ったのに」 タオルでがしがしと頭を拭きながら覗き込んできたのは俺のライバル、と勝手に俺が思ってるだけの、あいつで。 「なんでお前、俺以外に抜かされてんだよバーカ」 友好的に差し出された手とは対照的にあいつは不機嫌そうで、俺はぽかんと見上げながらその手を握ることしか出来なかった。 ---- [[盲目な受け>20-589]] ----
やっと追いついたと思ったのに ---- やっと追いついたと思ったら、彼は次に行ってしまう人だった。 自分が四回転に成功したと思ったら、彼は難易度の高い四回転に成功して翌日の新聞に大きく載った。 常に同じ技に挑戦していたから、ファンからは彼の劣化コピーとなじられた。 僕は彼より高い表彰台にのぼった事はない。そして、もうそれは出来ない。 「西谷選手、世界選手権優勝おめでとうございます」 「ありがとうございます」 「完璧な演技でしたね」 「イメージ通りに滑れたのは良かったと思います」 「このプログラムは今は亡き佐武選手の代表作と同じ曲ですが、プレッシャーはありませんでしたか?」 「大事な曲なので大切に滑ろうと思いました」 「もうあの難易度のプログラムを滑る選手は日本からは出てこないのではと言われていましたが」 「一つの形に出来た事には満足しています」 インタビューが続いていく。僕の頭の中では昔の彼の演技がリプレイしていた。 彼に追いつきたくて、やっとここまできたけれど。 「西谷選手が感動の涙です!」 叶うなら、もう一度彼と競い合いたい。言葉にならなくて僕はその場に立ち尽くしていた。 ---- [[盲目な受け>20-589]] ----

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