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盲目な受け ---- やっと追いついたと思ったら、彼は次に行ってしまう人だった。 自分が四回転に成功したと思ったら、彼は難易度の高い四回転に成功して翌日の新聞に大きく載った。 常に同じ技に挑戦していたから、ファンからは彼の劣化コピーとなじられた。 僕は彼より高い表彰台にのぼった事はない。そして、もうそれは出来ない。 「西谷選手、世界選手権優勝おめでとうございます」 「ありがとうございます」 「完璧な演技でしたね」「イメージ通りに滑れたのは良かったと思います」 「このプログラムは今は亡き佐武選手の代表作と同じ曲ですが、プレッシャーはありませんでしたか?」 「大事な曲なので大切に滑ろうと思いました」 「もうあの難易度のプログラムを滑る選手は日本からは出てこないのではと言われていましたが」 「一つの形に出来た事には満足しています」 インタビューが続いていく。僕の頭の中では昔の彼の演技がリプレイしていた。 彼に追いつきたくて、やっとここまできたけれど。 「西谷選手が感動の涙です!」 叶うなら、もう一度彼と競い合いたい。言葉にならなくて僕はその場に立ち尽くしていた。 ---- [[まるで妖精のような君>20-599]] ----
盲目な受け ---- 君は国王直属の騎士になる予定だった。 私が流行り病で視力を失うまでは…。 「王子…時間です」 「あ、はい」 城の外から、民衆たちの歓喜の声が聞こえる。 今日、この国には新しい王が誕生する。 玉座に座るのはもちろん私…ではない。 君が私の手を取る。 いつも剣を振り回している、ゴツゴツとした手。 少し指先が冷たい、大好きな手。 「王子の手を取れるのは自分だけの特権だ」と、君は笑った。 朗らかな声で笑った。 扉が開くと、強い風が私と君の髪を靡かせる。 君の髪が、私の頬をくすぐった。 私が光を失った日から、君は髪を伸ばしていると言ったね。 「王子の瞳に、光が戻ったとき、びっくりさせたくて」 やっぱり君は朗らかに笑った。 肩ぐらいだった君の黒髪…今は、背中を覆うほど伸びているんだ。 石畳が続く廊下を、着慣れない服で歩く。 王家代々に続く、式典の為の礼服は足にまとわり付くような長い裾が特徴だ。 女性ならまだしも、男性までこんな服着るの?…とは思ったけれど、礼服だから仕方ない。 恐る恐る、裾を踏まないように、ゆっくりと歩く。 窓の向こうからは、弟の名を叫ぶ民衆の声が聞こえる。 本当ならば、私の名が叫ばれていたはずだった。 微笑む私の隣で、君は誇らしげに胸を張っているはずだった。 そんなことをぼんやりと考えていると、案の定、長い裾を踏みつけ、前に体勢が崩れる。 「あ!」 石畳に叩きつけられそうになる体。 かし、その体は、強い力で抱きとめられる。 君の、逞しい腕が、私の体を後ろから抱きしめていた。 「王子…ご無礼をお許しください」 力強く抱きしめられた体が痛い。 抱きしめられた腕は、緩まる気配がなかった。 「シオ…着慣れない服は危なくていけないな…」 「はい…」 「シオ…抱き上げてくれるか?」 「っ!はい、仰せのままに」 私は手探りで君の首筋を探すと、手を回す。 君は下から私の体をすくい上げるように抱きかかえてくれた。 さっきの何倍ものスピードで、風が去っていくのを感じる。 ああ、やっぱり私は…。 民衆の歓声がすぐ近くまで聞こえる。 「シオ、ここでいい」 「はい」 下ろされた場所は柔らかい絨毯の上だった。 「シオ、今までご苦労だったね」 「は?」 「今日からお前は、私の世話役から外れてもらう」 「なっ!」 「その代わり…今日からお前は新国王の傍にあれ! 王直属の特級騎士だ!」 私は晴れやかに、笑って見せた。 いや、自分では分からない。 鏡が見れない私には、分からない。 もしかしたら、すごく醜い顔をしてるかもな…。 「王位継承式が終わったらすぐ任命式だからね。着替えてきなさい」 急にそれが恐ろしくなって、シオから顔を背ける。 これでいい。 これが、シオのための最良の選択。 私はシオの、足枷にしかならない、疫病神なんだ。 「王子…」 「………。」 「ああ、確かに、俺は世話役失格だな。 それどころかお前を泣かすなんて、処刑モンだ。 んー…じゃあ、どうせ処刑になるなら最後に…」 強い力で私の腕が引かれる。 次の瞬間、私の唇に初めての感触が触れた。 柔らかい…もしかして…シオの唇? 「おわっ!!」 突然聞こえた、私でもシオでもない声。 この声は… 「新…国王さま…」 シオの引きつった声が聞こえる。 「兄様…シオ…」 「ちっ!違うんだ!これは!私が命令したことであって!!」 「いや!俺が無理やり!!」 「えっと…」 流れる、気まずい沈黙。 「シオ…君は兄様の事…」 「申し訳…ありません…不敬なことを申し上げますが…」 息を短く吸う音。   「愛しています。心から」 彼の、葉が耳に届いた瞬間、私の瞳から驚くほどの雫がこぼれ始めた。 「兄様は…聞かなくても、分かりますね」 苦笑い交じりで、弟は囁いた。 「とりあえず、新国王としての一番初めの仕事は、王族としてあるまじき行為をとった兄様と、 世話役として不敬を働いた、シオの国外追放だな」 「弟者!待ってくれ!処罰するなら私だけで!!」 必死になって叫ぶ私に、弟は人差し指を立てて言う。 「ただし、期限付き!同性婚に関する法律が整備されるまで…ね。 確か隣の国は同性恋愛には優しかった気がするから、話つけておきます」 「国王…さま…」 「さあ、いってらっしゃい!次に会うときには、僕も素敵な伴侶を見つけておきます!」 「ありがとう!」 私は、シオの手をとりまっすぐ門へと走り出す。 シオも、しっかりと手を握り返し、走り出す。 「シオ…」 「ん?」 「驚いたよ、君の髪、思った以上に伸びてた」 ---- [[まるで妖精のような君>20-599-1]] ----

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