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そっと手を繋いでみた ---- 暖房のきいた居酒屋から一歩外に出ると、ひんやりとした夜風に身が竦んだ。 とりあえず駅まで歩くぞー、と幹事の号令がかかり、俺達はドヤドヤと移動を開始する。 宴の余韻そのままの周囲のテンションとは逆に、俺の足取りは重かった。 元々酒を飲むと沈み込む性質な上に、大勢でわいわい盛り上がるのは不得手なのだ。 それでもゼミのメンバーと親睦を深めようと思って今日の飲み会に参加したのだが、 結局深まったのは孤独感だけという笑えないオチだ。 独りを貫いておけばいいようなものを、なんであがいてしまうんだろう。 なんでもっと幸せになりたがってしまうんだろう。俺はなんでいつも―― 「かとーくん元気ー?」 「えっ?」 脇からいきなり話しかけられて、落ち込み続けていた意識が引き戻される。 「……や、酔ってテンション下がってるだけだから、平気」 話しかけてきたのは、小谷という男だ。 今まで他の講義でも何度か顔を合わせてきたが、なんとも掴みどころのない変な奴だ。 俺に言われたくはないだろうが。 「ヘー。奇遇だねえー俺は酔ってテンション上がってるんだー今」 あまりハイテンションとは思えない間延びした口調で、小谷は笑った。 別に奇遇でもなんでもないだろうと思っていると、 「ほい」 夜の外気に晒されていた俺の右手が、温かいものに触れた。 「ああ温かいな」と思ってから、それが小谷の左手だと理解するまで数瞬かかった。 「……なにこれ」 他のゼミ生たちが前方で騒いでいるのを見ながら、とりあえず俺は尋ねた。 「んー、手と手のシワを合わせてシアワセー、って。幸せになろーぜー」 トロンとした口調のまま小谷は答えた。 こいつ相当飲んだんじゃないか、いつも以上に訳がわからない。 「いや、あれ合掌だろ。やるなら一人で手合わせとけよ、一人で幸せになっとけよ」 普段ならスルーしているところだろうが、痛いところを突かれた気分になって、 思わず絡むような言い方になってしまった。 すると、 「そんな事言うなよ!!」 小谷がいきなり怒鳴った。 突然の変貌にぎょっとした俺は思わず隣を見やる。 彼はこちらを向いていなかった。ただ、繋がれた手に、ぎゅうっと力が込められた。 「なんで『一人で幸せになれー』とか言うんだよー。  俺は、かとーくんにも幸せになって欲しいんだよー。  というかぁ、かとーくんと一緒にじゃないと、俺幸せになれねーよー。  二人で幸せになんなきゃ意味ねーだろーがーバカヤロー」 さっきの怒号から一転して、今度は駄々っ子のように言い募る。 その間、俺の手を握る力は強くなる一方だ。 なんだこれ。ただの酔っぱらいの戯言だろうが、それにしたって言ってることが無茶苦茶すぎる。 けれど、なんで俺はこんな酔っぱらいの戯言ごときに、必死になって涙をこらえているんだろう。 「小谷君」 数回ひっそりと深呼吸をして、ようやくまともな声が出せた。 「んー?」 「手が痛い」 「え、あ、ごめん」 まだ不満げだった小谷だが、俺の言葉で我に返ったようにあわてて手を離した。 とたんに、右手から温もりが逃げていく。 名残り惜しい、と思った。そして、そう思ったことに自分で驚くよりも早く、 「あ……」 俺は小谷の手をそっと繋ぎ直していた。 「かとーくん……?」 こんなもの、酔った上でのじゃれあいに過ぎない。 夜が明ければ、きっとなかったことになる。それでも、 「離したら、寒かったから」 この手の温もりが、今の俺にはこの上ない幸せのように感じられた。 ---- [[道化師の恋>20-399]]
そっと手を繋いでみた ---- 暖房のきいた居酒屋から一歩外に出ると、ひんやりとした夜風に身が竦んだ。 とりあえず駅まで歩くぞー、と幹事の号令がかかり、俺達はドヤドヤと移動を開始する。 宴の余韻そのままの周囲のテンションとは逆に、俺の足取りは重かった。 元々酒を飲むと沈み込む性質な上に、大勢でわいわい盛り上がるのは不得手なのだ。 それでもゼミのメンバーと親睦を深めようと思って今日の飲み会に参加したのだが、 結局深まったのは孤独感だけという笑えないオチだ。 独りを貫いておけばいいようなものを、なんであがいてしまうんだろう。 なんでもっと幸せになりたがってしまうんだろう。俺はなんでいつも―― 「かとーくん元気ー?」 「えっ?」 脇からいきなり話しかけられて、落ち込み続けていた意識が引き戻される。 「……や、酔ってテンション下がってるだけだから、平気」 話しかけてきたのは、小谷という男だ。 今まで他の講義でも何度か顔を合わせてきたが、なんとも掴みどころのない変な奴だ。 俺に言われたくはないだろうが。 「ヘー。奇遇だねえー俺は酔ってテンション上がってるんだー今」 あまりハイテンションとは思えない間延びした口調で、小谷は笑った。 別に奇遇でもなんでもないだろうと思っていると、 「ほい」 夜の外気に晒されていた俺の右手が、温かいものに触れた。 「ああ温かいな」と思ってから、それが小谷の左手だと理解するまで数瞬かかった。 「……なにこれ」 他のゼミ生たちが前方で騒いでいるのを見ながら、とりあえず俺は尋ねた。 「んー、手と手のシワを合わせてシアワセー、って。幸せになろーぜー」 トロンとした口調のまま小谷は答えた。 こいつ相当飲んだんじゃないか、いつも以上に訳がわからない。 「いや、あれ合掌だろ。やるなら一人で手合わせとけよ、一人で幸せになっとけよ」 普段ならスルーしているところだろうが、痛いところを突かれた気分になって、 思わず絡むような言い方になってしまった。 すると、 「そんな事言うなよ!!」 小谷がいきなり怒鳴った。 突然の変貌にぎょっとした俺は思わず隣を見やる。 彼はこちらを向いていなかった。ただ、繋がれた手に、ぎゅうっと力が込められた。 「なんで『一人で幸せになれー』とか言うんだよー。  俺は、かとーくんにも幸せになって欲しいんだよー。  というかぁ、かとーくんと一緒にじゃないと、俺幸せになれねーよー。  二人で幸せになんなきゃ意味ねーだろーがーバカヤロー」 さっきの怒号から一転して、今度は駄々っ子のように言い募る。 その間、俺の手を握る力は強くなる一方だ。 なんだこれ。ただの酔っぱらいの戯言だろうが、それにしたって言ってることが無茶苦茶すぎる。 けれど、なんで俺はこんな酔っぱらいの戯言ごときに、必死になって涙をこらえているんだろう。 「小谷君」 数回ひっそりと深呼吸をして、ようやくまともな声が出せた。 「んー?」 「手が痛い」 「え、あ、ごめん」 まだ不満げだった小谷だが、俺の言葉で我に返ったようにあわてて手を離した。 とたんに、右手から温もりが逃げていく。 名残り惜しい、と思った。そして、そう思ったことに自分で驚くよりも早く、 「あ……」 俺は小谷の手をそっと繋ぎ直していた。 「かとーくん……?」 こんなもの、酔った上でのじゃれあいに過ぎない。 夜が明ければ、きっとなかったことになる。それでも、 「離したら、寒かったから」 この手の温もりが、今の俺にはこの上ない幸せのように感じられた。 ---- [[道化師の恋>20-399]] ----

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