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愛情不足
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「たった3万円? おかしいだろ、それ」
「……いいよ、別に」
「馬鹿、良いわけあるか! 事務所行くぞ。社長いるか」
無理矢理腕をとって歩き出すと、「いいよ、ほんと」と重い足取り。
こめかみのあたりにカーッと血がのぼるのがわかった。
就労時間に対して少なすぎる給料は何かの間違い、もしくは会社のごまかしか。
悪いのは社長か。事務か。誰かが抜いたのか。
あってはならん、こんなことは。訴えるべきか。警察。弁護士。労働基準監督署。
……いやいやいや。
それ以上に、引っ張られながら今も人ごとのようなこいつに、腹が立つ。
ようやくまともになったのに。やっと働けるって笑ってたのに。
可哀想な奴はどこまでいっても可哀想なままなのか!? 馬鹿な!
「お前、職場うまくいってないのか、ひょっとして」
腕を放すことなく聞けば、目を伏せながら「大丈夫……」と答える。
「……そうか」
こんなときは無力な自分が恨めしい。俺が雇えるものなら。せめていい口を紹介できれば。
実際にはただの社会人一年生で、まともな会社とはいえ雀の涙の給料であっぷあっぷしている身だ。
「毅さん」
やっと口を開けたと思えば、言いにくそうに「やっぱりいいよ、ほんとに」と足まで止まる。
「俺みたいなの雇ってくれてるんだし……辞めさせられたら行くとこないし」
笑った。泣くみたいに。
「みんな優しいし。俺に仕事教えてくれるし。まだ見習いみたいなもんだし……ほんとに、いいんだ、俺」
とうてい信じられない。小さな体に重すぎる材を毎日抱えて、足も肩も痣だらけのはずだ。
返事できないでいると、さらに小さな声でつぶやくように言った。
「それに、毅さんに迷惑かけられないし」
「馬鹿!」
大声は駄目だ、優樹には駄目なんだ。わかってたのに思わず出してしまった。
案の定、優樹はびくっと身を縮ませる。
その肩をつかんで、顔をそらすのもかまわず怒鳴りつけてしまう。
「俺は迷惑なんかじゃない! こんな仕事やめてしまえ!
住むところがないなら俺のとこに来ればいいじゃないか! お前……お前……!」
もっと自分を大事にしろ、とはあまりに陳腐すぎて言えなかった。
愛されなかった子供。俺の力では足りないのか。
どこかの女が優樹とくっつけばいい。だれか優樹を愛してやってほしい。
こんなにも愛しく思っていると、優樹に告げれば優樹は救われるのか。
それじゃ駄目な気がする。俺じゃ無理だ。俺の気持ちは優樹を不幸にする。
「……駄目だ。うやむやにしちゃだめなんだよ、こういうことは」
深い疲労を覚え、また歩き出した。きっと優樹は俺の表情を誤解してるだろうと歯噛みしながら。
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[[はきだめの鶴>20-369]]
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