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期間限定の恋 ---- 二月の澄み渡る空に、合唱の声が抜けていく。 仰げば尊し、我が師の恩。 練習をしているのは、卒業を来月に控えた三年生だ。 ピアノの音色が心地よく私の耳に余韻を残す。 彼が卒業した、ちょうど一年前を思い出した。 あの日も、彼はいつもと同じ穏やかな笑顔で私に微笑んでいた。 来月からは大学生ですね。 私は模範的な教師の顔で微笑み返す。 早咲きの桜が、彼の肩で舞っていた。 先生、好きです。 彼はまたそのときも、私に告げた。 そういった彼と、在学中、戯れに唇を重ねたり、気まぐれに肌を重ねることもあった。 いまとなっては、それらはまるで夢のようだ。 歌声が聴こえなくなった。 授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。 彼とは、卒業式以降会っていない。 彼の連絡先も進学先も、彼の担任であった私は知っている。 けれどこの一年、私は彼に連絡を取ることをしなかった。 彼もしてこなかった。 先生、好きです。 一瞬の静寂に、彼の声がまざまざと蘇る。 記憶が、一年前に引き戻される。 私は堪らず、両手で顔を被った。 彼は今、きっと楽しいのだろう。 強い彼は、私のことなど、石につまずいたくらいに思うことができるはずだ。 それでいい。 私のことなど、彼は忘れていなければいけない。 彼と私は、生徒と教師という時間の中で夢を食っていたに過ぎないのだから。 その限られた時間の中で、確かに私は恋をしていた。 確かに恋だった。ただ、それだけのこと。
期間限定の恋 ---- 二月の澄み渡る空に、合唱の声が抜けていく。 仰げば尊し、我が師の恩。 練習をしているのは、卒業を来月に控えた三年生だ。 ピアノの音色が心地よく私の耳に余韻を残す。 彼が卒業した、ちょうど一年前を思い出した。 あの日も、彼はいつもと同じ穏やかな笑顔で私に微笑んでいた。 来月からは大学生ですね。 私は模範的な教師の顔で微笑み返す。 早咲きの桜が、彼の肩で舞っていた。 先生、好きです。 彼はまたそのときも、私に告げた。 そういった彼と、在学中、戯れに唇を重ねたり、気まぐれに肌を重ねることもあった。 いまとなっては、それらはまるで夢のようだ。 歌声が聴こえなくなった。 授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。 彼とは、卒業式以降会っていない。 彼の連絡先も進学先も、彼の担任であった私は知っている。 けれどこの一年、私は彼に連絡を取ることをしなかった。 彼もしてこなかった。 先生、好きです。 一瞬の静寂に、彼の声がまざまざと蘇る。 記憶が、一年前に引き戻される。 私は堪らず、両手で顔を被った。 彼は今、きっと楽しいのだろう。 強い彼は、私のことなど、石につまずいたくらいに思うことができるはずだ。 それでいい。 私のことなど、彼は忘れていなければいけない。 彼と私は、生徒と教師という時間の中で夢を食っていたに過ぎないのだから。 その限られた時間の中で、確かに私は恋をしていた。 確かに恋だった。ただ、それだけのこと。 ---- [[命令違反>20-569]] ----

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