「20-199」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

20-199」(2011/06/25 (土) 19:21:07) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

胡蝶蘭 ---- その噂を聞いたのは、偶然だった。 『ある娼館に、絶世の美を誇る女性が居る』 『彼女見たさに様々な者が金を積むが、なかなか会うことを許されない』 『彼女の名は、胡蝶蘭』 ありきたりではあるが、私はとても、興味をそそられた。 何せ、正体不明ではあるが、『絶世の美人』だ。 しかも、ほぼ誰も彼女の顔を知らないとなれば、好奇心の湧かない男は居ない。 私が窓越しに町並みを眺め、ほくそ笑むと、ノックの音と共に、一人の青年が入ってきた。 黒い髪を後ろに撫でつけ、銀縁の眼鏡の似合う端正な面立ちの彼は、最近雇ったばかりの秘書だ。 名を、青嶋と言う。 「旦那様、にやけ面していかがなさいました?」「ん?今日こそは、あの胡蝶蘭に会わせて貰おうと思ってな。ようやく、それらしい娼館を見つけたんだ。他の奴に取られぬうちに、顔くらい拝みたいじゃないか」 「それは結構なことですが、これで何度目ですか?」 青嶋の整った顔に詰め寄られ、私は言葉に詰まった。 「二十……二、回位かな?」 「二十五回です。つぎ込まれた金額は、約五千万にのぼっています」 「なんで詳しく知っているんだ」 「帳簿管理をしているのは、誰ですか?」 「君、だな」 青嶋の眼鏡に光が反射し、どんな表情かは分からない。 だが、溜め息をついた所を見ると、どうやら呆れられたらしい。 「どのような者に熱を上げようと、それは旦那様の勝手です。ですが、一言言わせていただきますと、高価な菓子や着物、帯、その他様々な小物を矢継ぎ早に贈られても、相手は困惑するのではないですか?」 普段よりも、やや熱の籠もった訴えに、私のほうが困惑した。 だが、彼の言葉にも一理ある。 「じゃあ、何を贈ると良いんだろうか。絶世の美人だ、さぞ目が肥えて居るだろう」 私が溜め息を吐くと、少し考える素振りを見せた青嶋が、柔らかな声色で呟いた。 「蘭を」 「え?」 「胡蝶蘭を、贈ってみてはいかがですか?」 言われて、はたと気がついた。 確かに失念していた。 通り名にするくらいだ、きっとその花は、彼女の好きな花に違いない。 自身の浅慮さを恥入り、私は改めて青嶋に礼を告げた。 「ありがとう、早速手配するよ。そうだ、よければ君も一緒に来ないか?」 「申し訳御座いません、今日の夜は先約がありまして」 「そうか」 少し残念に思いつつ、私は直ぐに電話を引き寄せ、花屋に蘭を手配させた。 同時に、青嶋の口元が小さく動いた気がしたが、すぐにその事は忘れてしまった。 それ程、夜が来る事が待ち遠しくて、仕方がなかった。 「お待ちしてます、旦那様」 ----   [[裏切り者>20-219]] ----

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: