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悪いことしよう ---- 「俺、今日から不良になる」 そう内容とは裏腹の笑顔をそえて宣言されたのが三週間前。 髪を染めたりピアスを開けたりしてくるかとドキドキ過ごした一週目。 タバコ吸ったり酒飲んで騒いだりで補導されやしないかとヒヤヒヤした二週目。 盗んだバイクで走り出すのか校舎の窓ガラスを割ったりするのかと歌いだしそうに悩んだ三週目。 とりあえず見たところ変化はないようだし、不良になるのはやめたのかなと楽観視したのが三十分前。 「先生、悪いことしよう」 そう上目がちで睨みつけるように顔を寄せてきたのが三秒前。 あまりの顔の近さに、思わず顔を退いた拍子に椅子ごと倒れた現在の俺、先生。 といっても大学に通う側バイトでしている家庭教師の先生。 見下ろす彼は、高校受験を間近に控えた悩み多き中学三年生。俺の生徒。 みっともなく倒れた俺を笑うでもなく彼は椅子から立ち上がり、俺に覆いかぶさるように両手を床に付く。 そしてもう一度「悪いことしよう」と言った。 目を閉じて顔を近づけてくるその目的は明白であったが、俺は敢えて聞くことでその行為を遮った。 「わっ悪いことって何!?」 鼻先三寸手前で冷めた視線と無言の返事が返される。 中学生の大人な一面を垣間見せられた気がした。 ちょっと何?今時の中学生のこの慣れた様子はどういうこと?と焦る俺、童貞。恥ずかしながら彼女いない暦がそのまま年齢だから、キスも未経験だ。 中学生なんかに負けてなるものかと変な対抗意識を燃やしつつ、さらに言葉を探すのだが、 「悪いことはしちゃダメだろ!」 我ながら子供だましな抵抗しかできず情けない限りである。 しかしそれに対する我が生徒の返答が 「不良だからいいんだよ」 と何とも可愛らしいものだったため、俺はつい笑ってしまった。 すると馬鹿にされたと思ったのだろう、彼は少し顔を赤らめ不貞腐れた顔になった。 それはよく見慣れた普段の、中学生らしい表情の彼だったため、俺に余裕が出来た。 「俺は先生だからさ、お前を不良にすることも、悪いことをさせるわけにはいかないんだよね」 どうだ!と得意げに言ってやった。 すると、彼は暫し思案した後「じゃあ」と意地悪い笑みを浮かべ、続けて言った。 「いいことしよう、先生」 たぶん、キスされるのが三秒後。 ----   [[ジャイアニズム>8-949]] ----

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