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やさしいライオン
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「さっさと食えよ」
「で、でも……」
さっきからこの問答の繰り返し。
「腹減ってるんだろ?」
だから俺を追い詰めてるんだろうが。
「で、でもきっと痛いよ」
「そりゃそうだろ」
肯定してやればさらに泣きそうになる。
勘弁してくれ。
「なら俺はもう行くぞ」
「だだだだダメだよ!そんな足じゃすぐ別の奴に捕まるよ!」
「誰のせいだ!」
今自分の足は真っ赤に染まっている。
逃げようとして岩の隙間に挟んでしまった。
情けない。
目の前でお腹を鳴らしながら涙ぐむライオン程ではないが。
「もういいから、はっきりしろ……」
「その怪我じゃ逃げられないから……」
ザラリとした舌が足をなぞった。
「逃げていいから、少しだけ食べさせて。怪我が治るまで」
そう言いながら、傷を労っていく。
どれだけお人好しなのか。
「そんなんじゃ、腹は膨れないだろ」
「おいしいよ」
ヌルリとした感触に背筋が震えた。
あれからどれだけ経ってもライオンはただ舐め続けるだけだ。
「まだ、痛い?」
「痛いから……ッ……早く、食べろ」
「食べない」
もう足は赤くない。
いくらでも走れる。
舐めているのだってもう足じゃない。
逃げない自分と舐め続けるライオン。
馬鹿なのはどっちだろう。
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[[やさしいライオン>8-869-1]]
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