「8-699-1」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

8-699-1」(2011/04/27 (水) 21:06:36) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

恥ずかしいけど手を繋ぐ ---- 肩で荒く息を吐く。脳内が倦怠感とその吐息で埋められる。 正直、身体を重ねることに対しては何も不満はなかった。 それで一時でもお前を俺のものに出来るのならば。 一瞬でも、お前の目の中に俺が映っているのならば。 その場所にお前の愛情などなくても、お前が提案してきてくれたんだから良いと思った。 だけど、どうしてだろう。 10回目の逢瀬から、何かもやもやしたものが心に突っ掛かっている。 20回目の夜を越すと、それは喉元から出そうなほど内心を満たしてきていた。 俺はお前で満たされればそれで良いのに。一瞬でもいいから。 そう何度も言い聞かせて迎えた30日目の夜。 はぁっと大きな甘い吐息を吐き出して、虚ろな表情のお前が笑った。 その瞳には俺が映り込んで揺れていた。 緩慢な動作で繋がりを解いても、お前の目は俺に纏わりついて離れない。 甘く鋭い痛みを伴う視線。俺は顔を背けて、お茶のペットボトルを取ろうとベッドから腰を上げた。 「逃げンなよ」 伸ばされた手が俺の指先に絡んだ。呆然として振り向くと、やはりお前は笑んでいる。 「俺はようやく逃げられないって観念したのに」 指を弄ぶお前が喉で笑う。絡められた指を強く引かれて、俺は再びお前の隣に腰を下ろす。 喉先で滞留していた言葉にならない文字列が、沈黙の中互いの手のぬくもりで昇華した。 「本気の奴と最初につながりたいなら、アソコでも舌でも身体でもなく、まず手を差し出せよ」 「…だからカイは手を」 「それ以上言ったら明日骨折してても知らねーぞ」 ----   [[恥ずかしいけど手を繋ぐ>8-699-1]] ----
恥ずかしいけど手を繋ぐ ---- 自宅のアパートまであと100メートルというところで、突然彼は俺の手を掴んだ。 なんの前触れも無かったから、それが初めて彼からの積極的な行動だったことに気づくのは 家に帰って二人で冷たい布団に潜ってからだった。 ただ今は、氷のように冷えきった彼の手に驚きながら、俺は数歩先を歩く彼の様子をうかがっていた。 まるでこれじゃ、スーパーで駄々をこねた子供とそのお母さんみたいだ。 「…いや、でも俺の方が身長高いからな。やっぱり、子供というわけにもいかないなぁ」 「はぁ? お前、何一人でブツブツつぶやいてんの?」 「ん、俺のことはあまり気にするな。……っていうかさぁ」 「……何だよ」 夜の10時を過ぎると、一日の仕事を終えて点滅を繰り返す信号の交差点。 車が走っている気配などまったくしないのに、赤信号の点滅に、彼は足を止めた。 その交差点を渡れば、アパートは目の前である。 「どうして手を繋いでるのに、いきなり急ぎ足で歩くわけ?」 「ちょ、バカか? 俺は手なんて繋いでいない!」 「じゃあ、これは一体何なんだよ」 「こ、これは…だからその…違うんだってば!」 そう言うと、また彼はずんずんと歩き出した。 それに引っ張られるように歩く俺。 俺は、このときはまだ思い出していなかった。 二人で見た朝のニュースの、最後の5分でやる血液型占いの結果の B型のあなたは、恋人と手を繋いだりすると恋愛運がアップ!という女子アナのナレーションを。 ----   [[踏みにじってください>8-709]] ----

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: