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恥ずかしいけど手を繋ぐ
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肩で荒く息を吐く。脳内が倦怠感とその吐息で埋められる。
正直、身体を重ねることに対しては何も不満はなかった。
それで一時でもお前を俺のものに出来るのならば。
一瞬でも、お前の目の中に俺が映っているのならば。
その場所にお前の愛情などなくても、お前が提案してきてくれたんだから良いと思った。
だけど、どうしてだろう。
10回目の逢瀬から、何かもやもやしたものが心に突っ掛かっている。
20回目の夜を越すと、それは喉元から出そうなほど内心を満たしてきていた。
俺はお前で満たされればそれで良いのに。一瞬でもいいから。
そう何度も言い聞かせて迎えた30日目の夜。
はぁっと大きな甘い吐息を吐き出して、虚ろな表情のお前が笑った。
その瞳には俺が映り込んで揺れていた。
緩慢な動作で繋がりを解いても、お前の目は俺に纏わりついて離れない。
甘く鋭い痛みを伴う視線。俺は顔を背けて、お茶のペットボトルを取ろうとベッドから腰を上げた。
「逃げンなよ」
伸ばされた手が俺の指先に絡んだ。呆然として振り向くと、やはりお前は笑んでいる。
「俺はようやく逃げられないって観念したのに」
指を弄ぶお前が喉で笑う。絡められた指を強く引かれて、俺は再びお前の隣に腰を下ろす。
喉先で滞留していた言葉にならない文字列が、沈黙の中互いの手のぬくもりで昇華した。
「本気の奴と最初につながりたいなら、アソコでも舌でも身体でもなく、まず手を差し出せよ」
「…だからカイは手を」
「それ以上言ったら明日骨折してても知らねーぞ」
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[[恥ずかしいけど手を繋ぐ>8-699-1]]
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恥ずかしいけど手を繋ぐ
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自宅のアパートまであと100メートルというところで、突然彼は俺の手を掴んだ。
なんの前触れも無かったから、それが初めて彼からの積極的な行動だったことに気づくのは
家に帰って二人で冷たい布団に潜ってからだった。
ただ今は、氷のように冷えきった彼の手に驚きながら、俺は数歩先を歩く彼の様子をうかがっていた。
まるでこれじゃ、スーパーで駄々をこねた子供とそのお母さんみたいだ。
「…いや、でも俺の方が身長高いからな。やっぱり、子供というわけにもいかないなぁ」
「はぁ? お前、何一人でブツブツつぶやいてんの?」
「ん、俺のことはあまり気にするな。……っていうかさぁ」
「……何だよ」
夜の10時を過ぎると、一日の仕事を終えて点滅を繰り返す信号の交差点。
車が走っている気配などまったくしないのに、赤信号の点滅に、彼は足を止めた。
その交差点を渡れば、アパートは目の前である。
「どうして手を繋いでるのに、いきなり急ぎ足で歩くわけ?」
「ちょ、バカか? 俺は手なんて繋いでいない!」
「じゃあ、これは一体何なんだよ」
「こ、これは…だからその…違うんだってば!」
そう言うと、また彼はずんずんと歩き出した。
それに引っ張られるように歩く俺。
俺は、このときはまだ思い出していなかった。
二人で見た朝のニュースの、最後の5分でやる血液型占いの結果の
B型のあなたは、恋人と手を繋いだりすると恋愛運がアップ!という女子アナのナレーションを。
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[[踏みにじってください>8-709]]
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