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「話して、尊いその未来のことを」 ---- 握った手は冷たかった。刻一刻と熱が失われてゆくその手を握り締め、俺は号泣していた。 絶望と後悔に胸は裂けそうなほど凍えているのに、頬を伝う涙は焼けるように熱かった。 俺は握り締めた手を自分の頬に押し当てた。 この涙の熱さが、お前にうつればいいのに。 お前の中に流れ込み、消えそうな熱を留めてくれればいいのに。 それが、絶対に不可能なことだと判っていても、願わずにはいられなかった。 「泣か、ないで下さい、マ、スター」 途切れ途切れの声で無理を言う。涙を止めることは出来なかった。 「無理だ…」 「マス、ター。私は、マスター、が生きて、おられるだけで、嬉、しい…のです」 「馬鹿言え…俺は、嬉しくない」 「嬉しい、のです。マ、スター、貴方の、み、らい…守れ…こと。 貴方が、話し…下さった…尊い、ゆめ…」 嗚咽が喉を突き上げる。馬鹿だ。こいつは、いつも。 「お前がいないと意味がない!お前が…!」 「マ…ター。最、期に、聞か…て、…さい。も…いち…ど」 もう、ほとんど熱は残っていなかった。消える。消えてしまう。焦りと絶望感に支配されながら、 けれどこいつの望みを叶えたくて、言葉が口をついて出る。 「海に…海に、行くんだ。お前は海は駄目だけど、きっと行けるようになる。 最初は泳げなくても、波打ち際で話をするだけでもいいんだ。 お前に潮風を浴びさせてやりたい。あの匂い、潮を渡ってくる風の匂い。 行けるようになる。俺がきっと…」 涙が落ちた。もう、声は聞こえない。止まってしまった鋼の身体。 熱を生み出していたモーターの、羽音すら聞こえない。 俺の涙で濡れたお前の体は、潮の匂いがして、余計に涙が止まらなかった。 ----   [[さあ踏んでくれ>8-619-1]] ----

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