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派閥対立 ---- 仮眠を取ろうと足を踏み入れた休憩室には、既に他の人間が居た。 眠そうな顔で目蓋を擦ってソファにどっかと腰掛けた俺に、向かいの椅子に座っていた相手が声をかける。 「あっ、あのっ! 斉藤先生ですよね!」 弾んだ声音は、随分と若々しい。 興奮しきった目でこちらに話しかけてきたのは、先日転任してきたたばかりの若い医師だった。 紅潮した頬を手で抑えると、勢い込んで俺に告げる。 「俺、学生時代に先生の論文を読ませていただいたんです。 それで、その……すごく感銘を受けて小児科に!お、お話できて光栄です!! 」 よほど緊張していたのだろう。 一息にそこまで言って、ふぅ~っと長い息を吐き出す。 顔は見る見る間にさっきの倍は赤くなり、その心臓の鼓動がこちらにまで聞こえてきそうだった。 俺なんかと話すのにこんなに真っ赤になるなんて、全く何て無駄なことを。 そう思いながらも、自分の言葉に影響を受けた人間が目の前に居ることに対して、少しばかり嬉しくなる。 口元を綻ばせて『こちらこそ光栄です』と言い掛けた瞬間、しかしふっと嫌な予感が脳裏をよぎった。 『こちらこそ』の『こ』の形を作ったまま、唇が固まる。 その口唇から結局別の言葉を吐き出して、彼へと尋ねた。 「……君、出身はどこって言ってたっけ?」 俺の問いに、彼は一瞬首をかしげるようにしながらも、すぐさま誇らしげな声で答えた。 日本最高峰のその国立大学の名を聞いて、俺は小さく天を仰ぐ。 いつの間にか汗をかいていた額を平手でぴしゃりとやって、首を左右にゆらゆらと振った。 「そりゃぁ、君、俺なんかと話しちゃいけないな」 「……はい?」 「俺はK大の出身だから。 そういうの、色々あるんだ。ここは」 苦笑したような顔で告げれば、相手は「そんな」と反論するように語気を荒げる。 その彼の血気盛んな目を見据えて、なだめる様ににこりと笑った。 「悪いけど、そういうわけだ。俺にはあまり話しかけないでくれよ」 言って、腰を上げ立ち上がる。 背を向けた彼の口元から、ぎりりと歯を噛む音がしたのは、きっと俺の気のせいだろう。 ----   [[コスモス・時間旅行者>8-459]] ----

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