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カブ ---- 担任の終業挨拶と同時に教室を飛び出す。 帰りの清掃はレアカード一枚を犠牲に買収済みだ。 階段を転がり落ちるように駆け下りる。 下駄箱で靴を履き替えるのももどかしい。 (間に合わなかったらどうしよう) 心配なんて足を止めるだけ。今は走らなきゃ! 自宅までは歩いて十分。走れば五分でつくはず! 校門を出てすぐに左へ曲がる。 次に右へ曲がれば家の前の通りに出る。 息が上がっていても深呼吸で一度整えて。 この道を通るルールは、限界までダッシュ! 玄関に入ってバッグを投げ捨てる。 二階の僕の部屋まで駆け上がったら、窓を全開にして身を乗り出す。 視線は一点集中。 今通ってきた道の角。 (もう聞こえるはず!だって今日は隣のお兄ちゃんの誕生日だもん) そう、お隣さんの記念日はいつも同じ。 おばさんがケーキを買って、おじさんが花を買ってくる。 そして…… ブルルルルル――― 「来た!」 そして、必ず二丁目のおそば屋さんで出前を取るんだ! 僕が通ってきた道を颯爽と走ってくる出前カブ。 今にも止まりそうなボロなのにお兄さんの髪をなびかせて走る。 ノーヘルは危険で違反だとお母さんは見るたびに怒っている。 「でも、カッコイイよなー」 隣のおばさんと少しだけ話して、岡持ちからどんぶりを二つとおそばを二つ出して、お兄さんの仕事は終わる。 『まいどー』と声が響いたら、再び僕の家の前を颯爽と走っていく。 いつか、僕が免許を取ったら、おそろいのカブでお兄さんと並んで走れるかな? お兄さんは金色を、僕は黒い髪をなびかせて。 ブルルルルル――― バイクの音が聞こえなくなるまで、遠い夢を見ていた。 名前も知らないお兄さんの残像を、窓から見ていた。 下から僕を呼ぶお母さんの声が聞こえて、バットとグローブを手に部屋を出る。 「帰ってからかたづけるー」とだけ叫んで玄関を出る。 お兄さんが消えた角まで風を切って走る。 (きっと、こんな感じで走るんだろうな)なんて予行練習みたいに。 ----   [[インコ>18-049]] ----
カブ ---- 担任の終業挨拶と同時に教室を飛び出す。 帰りの清掃はレアカード一枚を犠牲に買収済みだ。 階段を転がり落ちるように駆け下りる。 下駄箱で靴を履き替えるのももどかしい。 (間に合わなかったらどうしよう) 心配なんて足を止めるだけ。今は走らなきゃ! 自宅までは歩いて十分。走れば五分でつくはず! 校門を出てすぐに左へ曲がる。 次に右へ曲がれば家の前の通りに出る。 息が上がっていても深呼吸で一度整えて。 この道を通るルールは、限界までダッシュ! 玄関に入ってバッグを投げ捨てる。 二階の僕の部屋まで駆け上がったら、窓を全開にして身を乗り出す。 視線は一点集中。 今通ってきた道の角。 (もう聞こえるはず!だって今日は隣のお兄ちゃんの誕生日だもん) そう、お隣さんの記念日はいつも同じ。 おばさんがケーキを買って、おじさんが花を買ってくる。 そして…… ブルルルルル――― 「来た!」 そして、必ず二丁目のおそば屋さんで出前を取るんだ! 僕が通ってきた道を颯爽と走ってくる出前カブ。 今にも止まりそうなボロなのにお兄さんの髪をなびかせて走る。 ノーヘルは危険で違反だとお母さんは見るたびに怒っている。 「でも、カッコイイよなー」 隣のおばさんと少しだけ話して、岡持ちからどんぶりを二つとおそばを二つ出して、お兄さんの仕事は終わる。 『まいどー』と声が響いたら、再び僕の家の前を颯爽と走っていく。 いつか、僕が免許を取ったら、おそろいのカブでお兄さんと並んで走れるかな? お兄さんは金色を、僕は黒い髪をなびかせて。 ブルルルルル――― バイクの音が聞こえなくなるまで、遠い夢を見ていた。 名前も知らないお兄さんの残像を、窓から見ていた。 下から僕を呼ぶお母さんの声が聞こえて、バットとグローブを手に部屋を出る。 「帰ってからかたづけるー」とだけ叫んで玄関を出る。 お兄さんが消えた角まで風を切って走る。 (きっと、こんな感じで走るんだろうな)なんて予行練習みたいに。 ----   [[インコ>8-049]] ----

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