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僕を救う手 ---- 遠くから声がする。 「安藤、安藤ー!」 俺がその声に振り向くと、声の主は顔をくしゃくしゃにしていた。そして紙切れをずいと俺によこす。 「馬鹿っ、お前……なんでこれだけで行っちまうんだよ」 飯田の声は泣いているんだか怒っているんだかわからない。けれどなにか昂ぶった感情を俺にぶつけてきて、俺は少しひるんだ。 紙切れは俺の残したメッセージ、 「さよなら」 の一言だけのはず。名前も残さなかったのに、こいつは俺だとわかって追いかけてきた。 「何でって……仕方ないじゃん。俺がいたら、サッカー部は全国大会を棄権しなきゃいけねーだろ」 飯田は大きく首を振る。 「そんな言い方するなよ! お前がいたから、俺はここまで来れたのに」 その一言が俺の胸をしたたかに打った。 「お前がいたから……だから俺はお前についてきたのに、つれないこと言うなよ……」 そしてまた顔をくしゃくしゃにする。俺は手を伸ばして、飯田を抱きしめた。 なんとなくそうしなくちゃいけない気がした。飯田の手も俺にそっと触れる。 俺よりも一回り小さくて生白い手だけれど、それがなんだかいつもよりも大きく見えた。 「ごめん……ごめんな」 そのときになってようやく気がついたんだ。 こいつが俺に救われていたように、俺もこいつに救われていたんだって。 ----   [[一方通行の両想い>8-029]] ----

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