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人形のような男
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興味を引く人物がいる。
二月ほど前に会社の向かいに出来たコンビニのバイト店員だ。
その男ははとにかく何をしていても無表情で愛想のカケラも感じられ無い。
このコンビニの店長は一体彼のどこが気に入って雇う気になったのかと不思議に思う。
いや、もしかしたら顔でバイトに選ばれたのかもしれない。
初対面の子供には大抵目が怖いと泣かれるような俺とは違い、少し可愛らしいが『人形のような男』という形容がよく似合う、彼の端正な顔立ちに表情が浮かぶ瞬間を見てみたいと俺は思うようになっていた。
「いらっしゃいませ。」
自動扉が開くと同時に、小さな声で彼が挨拶をする。
最近は仕事帰りに雑誌の立ち読みをしつつ、窓に映る店内から彼を観察するのが俺の日課になっていた。
店の商品を並べている、やはり無表情。
「ありがとうございます。」
そう言って客に小さな袋を手渡す、やはり無表情。
雑誌を読み終わり、いつもと同じ缶コーヒーを一本購入して店を出ようとしたその時、
「お忘れ物ですお客様。」
と差し出されたのは数枚の硬貨、つり銭を受け取り忘れているのを思い出し、
「すっかり忘れていたよ、わざわざありがとう。」
再び財布を取り出しながらそう言うと、彼がわずかに驚いたような目をしているのに気づいた。
俺は何か変なことを口走っただろうか?
先ほどの会話を思い出しながらそう尋ねる。
「いいえ、あの、お客様の笑顔を初めて拝見しましたのでつい…。」
そう言って彼は下を向く。
無意識に笑っていたらしいことに少し気恥ずかしさを感じていると、彼はこちらを見て言った。
「あの、私もお聞きしたいことがあるのですが、何か私の接客に不手際がありましたら今言っていただけませんか?」
真っ直ぐこちらを見る眼に驚きつつ、どうしてそんな質問をするのかと聞いてみた。
彼の話を要約すると、彼はいつもいつも俺にものすごい目で睨まれていると感じているようだった。
そしてそのせいで失敗しないように意識するあまり無表情になっていたらしい。
なるほど、観察するときはじっと彼を見つめていたから、何か苦情があって睨まれていると勘違いされていたのだろう。
「それは誤解で君の接客に不手際はないし、睨んでいるように見えるのは俺の目つきが悪いせいだから、気にしないで欲しい。」
出来るだけ優しい声でそう答えると、彼の表情がパッと明るくなる。
「はい!ありがとうございます、変な質問をしてすみませんでした。」
いつもより元気な声で彼がそう言った。
俺はヒラヒラと手を振って店を出る。
数歩あるいた所でふと振り返ると彼と目が合った。
嬉しそうな笑顔でお辞儀をする彼を見て、今日は少し暑いな、と思いながら駅へと歩きはじめた。
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[[40年ぶりの再開>6-869]]
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