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さぁ俺を踏み越えて行くが良い ---- どうしてこうなったのだろうと、考えるのはやめにした。 考え方の違いは出会った時からわかっていて、それでも互いに手を伸ばしあった、 その過去は決して変わらない。 七年も前に袂を分ったからといって、今、敵軍の将として遭い見えたからといって、 貪るように抱き合ったあの日の想いに嘘などない。 たとえ、互いに遠慮容赦ない戦いを繰り広げようとも。 たとえ、今この瞬間に、お前の剣が俺を切り裂こうとも。 わざわざ跪いて、倒れ伏した俺を哀しげに見つめなくたって、いいんだ。 一軍の将たるものが、そんな様でどうする。 「―――…に、してやがる…」 どうにも掠れる声を振り絞る。情けないほどに弱々しいが、こいつに聴こえればそれでお十分だ。 「さっさと、行け…!」 さぁ、俺を踏み越えて行くがいい。お前ならきっとどこまでだって行けるから。 俺の信念も忠誠も今の国を守りたいという願いも全て、お前の心には届いているだろう。 それこそ、七年前から、ずっと。 そんなお前だからこそ、辿り着ける未来もあるだろう。 「―――」 すぅっと息を吸う気配を感じて、目線を上げる。睨み付ける。 謝罪の言葉を紡ごうものなら、死んで後でも刃を取ると、そう瞳で突き放す。 踏み越えるとはそういうことだと、ほんの少しでも楽になることなど許されないのだと、 見開かれた懐かしい双眸がやがて細まり、そして最後に、まっすぐにこちらを射抜いた。 今この国に必要なものが何か、夜が明けるまで語り合った頃の、迷いのないそれを 思い出させる眼差し。記憶より重みが見て取れるのは、気のせいなんかじゃない。 ―――…それでいい。 上がらない口の端の代わりに、瞼を伏せた。 立ち上がる気配がし、間もなく響き出した足音が、遠ざかり、おぼろげになり……消えた。  死屍累々。  そんな言葉が脳裏に浮かんだ。  オレたちは今日、高校を無事に卒業した。  問題ばっかり起こしてたけど、いざ卒業してみるとサミシイもんがある。  いやでもめでたい。何にせよめでたい。  そんなわけで、卒業式のあとにはお決まりの宴会がスタートしたわけだ。  みんな浴びるように酒を飲んでいたが、オレは味覚がコドモなのか、酒をあまりうまいと思わない。  必然的に、飲む量は誰よりも少なくなった。  大量にあった酒がどんどん減っていって、酔いが回っておかしなことになる奴が増えてきた。  そして、この有様だ。  もちろん本物の死体というわけではない。死体はこんなにぎゃあぎゃあうるさくないはずだ。  素面なのは自分一人。もしかして後片付けも自分一人、だったりするのだろうか。  未だ見ぬ悲しい未来を思い浮かべながら、とりあえず空いた缶をポリ袋に入れてゆく。  喧噪の中で、チャイムが鳴った。  家の主もその仲間も、みんな酔っ払っていて出られる状態じゃない。  そんなわけでしかたなく、誰に命令されたわけでもないが、オレが客人の応接をすることになった。  ただ残念なことに、玄関までの道のりには死体がごろごろ。踏まずに進むにはちときつい。  手始めに、一番かさの高い渡辺を踏んづけてみる。 「ぅおえっ! おま、オレの屍を踏み越えていくなよ……」 「いや普通逆じゃね? つか踏み越えさしてくれよ屍くらい。」 「屍くらい、て。今のオレはデリケートなんだから、優しく扱ってくんねーとリバースしちまうぞ。」 「はいはい、もうおまえがキモいのはわかったから。」 「ちょっとこの子反抗期?!」  渡辺と同じように邪魔な奴らを片っ端から踏んづけて、やっとのことで玄関に辿り着き、ドアを開ける。  そこに立っていたのは結構意外な人物、だとオレは思う。 「あれっ、鳥井じゃん。どしたの?」  鳥井は同じクラスだったが、オレはあまり接点がなかった。  勉強も運動も得意で、寡黙な男前。元・弓道部部長。オレの知っている鳥井情報はこんなもんだ。 「もしかして、おまえも宴会呼ばれてた?」 「いや……」 「でももうちょっと早く来るべきだったなー。もうみんなべろんべろんだぜ?」 「……オレは、宴会に参加しにきたわけじゃない。」 「あ、そうですか……。」  そんな、そこまできっぱりと否定しなくても……。  鳥井はオレの周りの連中みたいに冗談を言ったりするタイプではないので、二人で話すとなると結構困難だったりする。 「えーっと、じゃあ鳥井は何で」 「鳥井?!」  ここに来たんだ、と尋ねようとしたのを遮られた。  遮ったのは鳥井を呼ぶ悲鳴にも似た声で、足音やらうめき声やらも一緒に聞こえてきた。 「鳥井っ!」  恐らく死体の中の一人であろう誰かがオレを押しのけ、そして、鳥井を力いっぱいビンタした。  鳥井はその衝撃によろめいたが、何とか体制を立て直す。  オレは目の前で繰り広げられた光景に、茫然自失することしかできなかった。  こいつは、鳥井はビンタをされにきたのか? いやいやそれはないだろう。そもそもこの後ろ姿は…… 「トモ?」  先程の悲鳴のような声と足音はトモのもので、うめき声は誰かがトモに踏まれたときのものだろう。  鳥井に強烈な一発をお見舞いしたトモは、肩で息をしながら耳まで真っ赤にしている。 「何でもっと早く来てくんねーんだよ!!」 「……悪かった。」 「鳥井が追っかけてこなかったらと思うと、おちおち酒も飲めねーよ!」  うーん、どう見ても泥酔状態ですけどねトモさん。口に出したら怒られるから言わないけど。 「おまえなんか、きらいだよ……」  いつも明るく笑っているトモが、ぼろぼろと涙をこぼしながら鳥井を睨みつけている。  鳥井はと言うと更なる謝罪をするでもなく、ただそっと、トモを抱きしめただけだった。  しばらくして我に返ったトモに、またビンタをくらってたけど。  あとから話を聞いたところ、オレはこいつらの痴話喧嘩に巻き込まれただけのようだった。  それにしても、痛い愛だなぁ。オレは絶対にお断りだ。  頬を腫らしてるところ悪いが、鳥井にも後片付けを手伝ってもらうことにしよう。  あ、そうそう。ちなみにオレは、安田。ただの狂言回しである。 ----   [[さぁ俺を踏み越えて行くが良い>6-629-1]] ----
さぁ俺を踏み越えて行くが良い ----  死屍累々。  そんな言葉が脳裏に浮かんだ。  オレたちは今日、高校を無事に卒業した。  問題ばっかり起こしてたけど、いざ卒業してみるとサミシイもんがある。  いやでもめでたい。何にせよめでたい。  そんなわけで、卒業式のあとにはお決まりの宴会がスタートしたわけだ。  みんな浴びるように酒を飲んでいたが、オレは味覚がコドモなのか、酒をあまりうまいと思わない。  必然的に、飲む量は誰よりも少なくなった。  大量にあった酒がどんどん減っていって、酔いが回っておかしなことになる奴が増えてきた。  そして、この有様だ。  もちろん本物の死体というわけではない。死体はこんなにぎゃあぎゃあうるさくないはずだ。  素面なのは自分一人。もしかして後片付けも自分一人、だったりするのだろうか。  未だ見ぬ悲しい未来を思い浮かべながら、とりあえず空いた缶をポリ袋に入れてゆく。  喧噪の中で、チャイムが鳴った。  家の主もその仲間も、みんな酔っ払っていて出られる状態じゃない。  そんなわけでしかたなく、誰に命令されたわけでもないが、オレが客人の応接をすることになった。  ただ残念なことに、玄関までの道のりには死体がごろごろ。踏まずに進むにはちときつい。  手始めに、一番かさの高い渡辺を踏んづけてみる。 「ぅおえっ! おま、オレの屍を踏み越えていくなよ……」 「いや普通逆じゃね? つか踏み越えさしてくれよ屍くらい。」 「屍くらい、て。今のオレはデリケートなんだから、優しく扱ってくんねーとリバースしちまうぞ。」 「はいはい、もうおまえがキモいのはわかったから。」 「ちょっとこの子反抗期?!」  渡辺と同じように邪魔な奴らを片っ端から踏んづけて、やっとのことで玄関に辿り着き、ドアを開ける。  そこに立っていたのは結構意外な人物、だとオレは思う。 「あれっ、鳥井じゃん。どしたの?」  鳥井は同じクラスだったが、オレはあまり接点がなかった。  勉強も運動も得意で、寡黙な男前。元・弓道部部長。オレの知っている鳥井情報はこんなもんだ。 「もしかして、おまえも宴会呼ばれてた?」 「いや……」 「でももうちょっと早く来るべきだったなー。もうみんなべろんべろんだぜ?」 「……オレは、宴会に参加しにきたわけじゃない。」 「あ、そうですか……。」  そんな、そこまできっぱりと否定しなくても……。  鳥井はオレの周りの連中みたいに冗談を言ったりするタイプではないので、二人で話すとなると結構困難だったりする。 「えーっと、じゃあ鳥井は何で」 「鳥井?!」  ここに来たんだ、と尋ねようとしたのを遮られた。  遮ったのは鳥井を呼ぶ悲鳴にも似た声で、足音やらうめき声やらも一緒に聞こえてきた。 「鳥井っ!」  恐らく死体の中の一人であろう誰かがオレを押しのけ、そして、鳥井を力いっぱいビンタした。  鳥井はその衝撃によろめいたが、何とか体制を立て直す。  オレは目の前で繰り広げられた光景に、茫然自失することしかできなかった。  こいつは、鳥井はビンタをされにきたのか? いやいやそれはないだろう。そもそもこの後ろ姿は…… 「トモ?」  先程の悲鳴のような声と足音はトモのもので、うめき声は誰かがトモに踏まれたときのものだろう。  鳥井に強烈な一発をお見舞いしたトモは、肩で息をしながら耳まで真っ赤にしている。 「何でもっと早く来てくんねーんだよ!!」 「……悪かった。」 「鳥井が追っかけてこなかったらと思うと、おちおち酒も飲めねーよ!」  うーん、どう見ても泥酔状態ですけどねトモさん。口に出したら怒られるから言わないけど。 「おまえなんか、きらいだよ……」  いつも明るく笑っているトモが、ぼろぼろと涙をこぼしながら鳥井を睨みつけている。  鳥井はと言うと更なる謝罪をするでもなく、ただそっと、トモを抱きしめただけだった。  しばらくして我に返ったトモに、またビンタをくらってたけど。  あとから話を聞いたところ、オレはこいつらの痴話喧嘩に巻き込まれただけのようだった。  それにしても、痛い愛だなぁ。オレは絶対にお断りだ。  頬を腫らしてるところ悪いが、鳥井にも後片付けを手伝ってもらうことにしよう。  あ、そうそう。ちなみにオレは、安田。ただの狂言回しである。 ----   [[さぁ俺を踏み越えて行くが良い>6-629-1]] ----

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