「6-599」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「6-599」(2011/04/18 (月) 04:47:54) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
あの舞台に立ちたかった
----
スタッフから渡された手紙は、薄っぺらいものだった。
簡素な封筒と、ペラペラの便箋。あいつらしい。
封筒を開けた瞬間、ふわりとあいつの匂いがした気がして、顔をしかめる。
俺は、深呼吸をして、折りたたまれた便箋を開いた。
「初舞台、成功おめでとう。
お前が憧れた舞台に立ったこと、誰よりも嬉しく思う。
またいつか、お前が、俺を許してくれた時、連絡くれ」
封筒や便箋に負けないほどの、簡素な言葉。
あの時と同じような、身勝手で一方的な言葉。そして最後に書かれた連絡先。
俺は、その手紙を破り捨てた。
何がおめでとう、だ。何が誰よりも嬉しく思う、だ。嘘つきめ。
本当は、もっと早くできていたことだ。お前が、置手紙一つで、黙って俺の前から
姿を消さなければ、10年は早くこの舞台に立っていたのだ。
それを、何だと思ってるんだ。許せるわけがない。
だいたい今更会って、どんな関係になる気なんだ。友達か? 友達なんて、戻れると
思っているのか。
腹立ちまぎれに、細かくちぎった便箋を、ゴミ箱にたたきつけると、ようやく怒りが少し
収まってきた。今更ながら、未練がましくあいつのことで激昂する自分に、腹が立つ。
…いや、自分の気持ちが分かりすぎているから、怒ることしかできない。
10年前の俺の夢は、確かにあの舞台に立つことだった。
しかし、自分一人でじゃない。あいつと一緒に、あの舞台に立ちたかった。
…もし、手紙に、あいつの言葉で。
「一緒に、あの舞台に立ちたかった」と書いていてくれていれば。
謝罪の言葉が、一言でもあったら。
俺は、あいつとまた会える気がしたんだろうか。
俺はタバコに火をつけて、胸に浮かんだ疑問を、空中に煙と一緒に吐き出した。
あの時、勝手に姿を消したのはお前だが、追わなかったのは俺。
もうこれ以上、この関係は変わることは無い。
----
[[あの舞台に立ちたかった>6-599-1]]
----