「6-459」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「6-459」(2011/04/18 (月) 01:09:25) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
理不尽なわがまま
----
薄暗い病室のベッドに、叔父さんは横たわっていた。
もう、ろくに身体を起き上げる事も出来ないらしく、
入り口に突っ立ったままの俺を、弱弱しい手つきで何とか手招きする。
「何だよ、幽霊みたいな顔しやがって」
どっちがだ、と言いたくなる。
自分こそ、見てるこっちが辛くなるくらいに顔面青白くしてるくせに。
俺の好きだった綺麗な長髪が無惨に抜け落ちて、頬もげっそりとこけている。
数ヶ月前とはまるで別人みたいで、俺は思わず息を呑んだ。
「叔父、さん……?」
「おう。何だ?そんなに変わっちまったかよ?」
その口調はいつもの軽快なそれと同じで、けれどそれが逆に空しさを漂わせている。
「変わりすぎだよ、ボロボロじゃ、な……」
普段と変わらぬ憎まれ口を叩こうとして、その声が震えているのに気付く。
駄目だ。泣いちゃいけない。叔父さんを心配させちゃいけない。
そう分かっているのに、喉をしゃくりあげるのは止まらない。
唇を前歯で噛んで震えを無理に押しとどめようとするのに、それは一向に止んでくれなかった。
「父さんが……中々、ここ教えてくれなくて…」
「ああ、アニキならそうすんだろうなぁ」
親族一同から厄介者扱いされていた、風来坊の叔父さん。
それでも、俺にとっては無二の存在だった、誰よりも尊敬する大切な人。
「ねえ、叔父さん」
俺は、眼前の枯れ木みたいな身体をした彼に縋るような目つきで願った。
「俺より先に死なないで」
その願いに叔父さんは一瞬表情を固めると、すぐさま飄々とした態度に戻った。
重い腕を無理矢理持ち上げて、ベッドサイドの俺へと伸ばす。
かさつく指先で俺の頬を撫で上げながら、叔父さんは薄く笑った。
「馬鹿。俺みたいなおっさんが、お前より長生きしてどうすんだ」
「だ、って……」
「我侭言うなよ、なぁ」
困ったような顔でそう口にした叔父さんの、茶色がかった瞳が俺を射抜いた。
……理不尽な我侭ばかり言って、ごめん。
いつもいつも、こうやって困らせて、ごめん。
でも我侭を言うのはこれで最後にするから、今回だけは、せめて許して。
だって俺、叔父さんのことが好きだから。
----
[[甘党>6-469]]
----