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スクーター ---- 午前2時に、幼馴染の浩太が、泣きながら、僕の部屋の窓を叩いた。 午前3時に、僕は浩太を、逃がすことを選択した。 そして、荷物をまとめて、僕は浩太のスクーターに乗った。 「お前は、朝になるまで、近くのカラオケボックスで待ってろ。  俺が、バイクで遠くまで行って、お前が遠くに逃げたように見せるから。  朝になったら、通勤ラッシュに紛れて、電車乗って、遠くへ逃げろ。  バイク乗り捨てたら、俺も合流するから」 2時間前に、自分が、泣いている浩太に言った言葉を、頭の中で繰り返す。 髪の色は、浩太と同じ色に変えた。 さっき入ったガソリンスタンドでは、印象に残るようなことをした。 大丈夫。大丈夫。僕はまだ、浩太を守れているはず。   午前5時。あと1時間もしたら、朝になる。 朝になったら、浩太の家の窓についた血が、外から見えて、浩太のやったことを 教えてしまうだろう。隣の家の僕も、いなくなっていることがバレるかもしれない。 それまでに、なるべく遠くに行かなきゃ。 なるべく遠くまで、走らなきゃ。 「このスクーターは、大学に入ったお祝いに、親が買ってくれたもので。  学校へ行くのも、遊びに行くのも、初めての彼女とデートへ行くのも、この  スクーターが運んでくれるんだ」 僕に、そう自慢していた、浩太の顔を思い出した。 色々コケたりして、ボロボロだけれど、俺の青春を、全て共にしたんだって言ってた。 アクセルをまわすと、スクーターのエンジンが、大きな音を立てた。 それは、弱気になる僕の心を、勇気づけた。 スクーター。お前の最後のドライブが、僕でごめん。 でも、僕は全てを捨てるから。 親も。兄弟も。友達も。全て、捨てるから。 だから、僕と走るのを、許して。 空が明るくなってきた。信号を無視した。 ----   [[スクーター>6-259-1]] ----

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