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彼は言った。 「ご自由にどうぞ」 どうしてそんなに簡単に自分の体を投げ出すことが出来るのか。 僕は戸惑う。 目の前のベッドに座る彼は笑った。 「だって、もうどうだって良いんです」 澄んだ黒目の奥にあるのは諦めだった。 諦めから来る弱々しい微笑み。 ああこの人は今でもあいつのことを愛しているんだと、拳を握った。 彼を置いていったのに、もう触れることさえ出来やしないくせに、まだ彼を縛るのか。 生きている間も、死んでからも、まだ。 彼は着ているシャツのボタンを殊更ゆっくりと外していく。 彼の鎖骨の上を、傷の付いた胸の上を、ランプの灯りが揺らめく。 僕はただじっとそれを見ていた。 外は嵐だった。 叩きつけるような雨と風の音だけが聞こえた。 僕達は、より一層世界から取り残されたようだった。
「ご自由にどうぞ」 ---- 彼は言った。 「ご自由にどうぞ」 どうしてそんなに簡単に自分の体を投げ出すことが出来るのか。 僕は戸惑う。 目の前のベッドに座る彼は笑った。 「だって、もうどうだって良いんです」 澄んだ黒目の奥にあるのは諦めだった。 諦めから来る弱々しい微笑み。 ああこの人は今でもあいつのことを愛しているんだと、拳を握った。 彼を置いていったのに、もう触れることさえ出来やしないくせに、まだ彼を縛るのか。 生きている間も、死んでからも、まだ。 彼は着ているシャツのボタンを殊更ゆっくりと外していく。 彼の鎖骨の上を、傷の付いた胸の上を、ランプの灯りが揺らめく。 僕はただじっとそれを見ていた。 外は嵐だった。 叩きつけるような雨と風の音だけが聞こえた。 僕達は、より一層世界から取り残されたようだった。

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