「6-089」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「6-089」(2011/04/17 (日) 17:55:30) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
子育て
----
深夜に帰宅したら、アパートの前の土をシャベルで掘り返している男がいて一瞬身構えた。
「…矢野君。通報されるぞ、何…やってんだ。」
隣の部屋のおとなしい大学生だとわかったので、声をひそめて話しかけた。
彼は振り向くとかるく頭を下げたが、戸惑っているのか何も言わない。
もっとも理由は足下を見てすぐに察しがついた…土の上に猫の骸があったから。
「あの猫、俺も知ってるよ。去年くらいからよくここにいたノラだよな。」
「…たぶん、まだ一才くらいだった…」
アパートの地所に勝手に動物の遺体を埋めるのは、たぶん違法だろうな、
と思いつつも、他にどうして良いかわからず、結局俺も彼を手伝った。
「矢野君、ちょっとうちで飲んでく?汚くしてるけど」
彼があまりに落ち込んだ顔をしているので、つい、元気づけてやりたくなって
そんなことを言ってしまったのだが、俺らしくないとは思った。
「…大川さん…。あの…すみません、ちょっと待っててください…!」
そう言って彼は自分の部屋に駆けて行った。うん、と答えて俺も自室の鍵を開ける。
つまみでも持ってくるつもりかな。しかしこの部屋に誰かが来るのは久しぶりだ、
などと考えながら、電気を付けて、テーブルの上を拭いたりしていた。
「…お邪魔します。」
「おー。あ、そうだ、矢野君は焼酎と日本酒どっちが…いい…」
矢野君は玄関口に、セルロイドの洗面器を持って立っていた。
俺は、その洗面器の中に何が入っているのかは、直感でわかってしまった。
立ち尽くしている彼に近づき、洗面器の中身を確認して、指でつついた。
「…目は開いてるんだな。三週間くらいか。」
「大川さん…、俺、こいつらのこと……」
訴えるような眼差しで俺を見る矢野君の目には、涙が…
「…こいつらのこと…ちゃんと、大きくなるまで守ってやりたい…」
矢野君の涙に反応してか、洗面器の中では子猫たちがごろんごろん転がりだす。
「…わかった、わかった。」
俺は洗面器を受け取って、涙を抑えられない矢野君の肩を抱いた。
ふたりで立派に育ててやろう、だから泣くなよ…などと口走ってしまったのは、
母猫の霊に取り憑かれてでもいたからだろうか。
さらにそれから二ヶ月後、矢野君と二人(と三匹)でペットが飼えるマンションに引っ越すことになったのは、
やっぱり母猫の霊の導きなのだろうか。
もしかして、恩返しのつもりなんだろうか…。
----
[[子育て>6-089-1]]
----