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子育て ---- 深夜に帰宅したら、アパートの前の土をシャベルで掘り返している男がいて一瞬身構えた。 「…矢野君。通報されるぞ、何…やってんだ。」 隣の部屋のおとなしい大学生だとわかったので、声をひそめて話しかけた。 彼は振り向くとかるく頭を下げたが、戸惑っているのか何も言わない。 もっとも理由は足下を見てすぐに察しがついた…土の上に猫の骸があったから。 「あの猫、俺も知ってるよ。去年くらいからよくここにいたノラだよな。」 「…たぶん、まだ一才くらいだった…」 アパートの地所に勝手に動物の遺体を埋めるのは、たぶん違法だろうな、 と思いつつも、他にどうして良いかわからず、結局俺も彼を手伝った。 「矢野君、ちょっとうちで飲んでく?汚くしてるけど」 彼があまりに落ち込んだ顔をしているので、つい、元気づけてやりたくなって そんなことを言ってしまったのだが、俺らしくないとは思った。 「…大川さん…。あの…すみません、ちょっと待っててください…!」 そう言って彼は自分の部屋に駆けて行った。うん、と答えて俺も自室の鍵を開ける。 つまみでも持ってくるつもりかな。しかしこの部屋に誰かが来るのは久しぶりだ、 などと考えながら、電気を付けて、テーブルの上を拭いたりしていた。 「…お邪魔します。」 「おー。あ、そうだ、矢野君は焼酎と日本酒どっちが…いい…」 矢野君は玄関口に、セルロイドの洗面器を持って立っていた。 俺は、その洗面器の中に何が入っているのかは、直感でわかってしまった。 立ち尽くしている彼に近づき、洗面器の中身を確認して、指でつついた。 「…目は開いてるんだな。三週間くらいか。」 「大川さん…、俺、こいつらのこと……」 訴えるような眼差しで俺を見る矢野君の目には、涙が… 「…こいつらのこと…ちゃんと、大きくなるまで守ってやりたい…」 矢野君の涙に反応してか、洗面器の中では子猫たちがごろんごろん転がりだす。 「…わかった、わかった。」 俺は洗面器を受け取って、涙を抑えられない矢野君の肩を抱いた。 ふたりで立派に育ててやろう、だから泣くなよ…などと口走ってしまったのは、 母猫の霊に取り憑かれてでもいたからだろうか。 さらにそれから二ヶ月後、矢野君と二人(と三匹)でペットが飼えるマンションに引っ越すことになったのは、 やっぱり母猫の霊の導きなのだろうか。 もしかして、恩返しのつもりなんだろうか…。 ----   [[子育て>6-089-1]] ----

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