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恋が始まる直前 ---- ひやりと冷たいものが頬に触れ、目覚める。 閉めたはずのカーテンが開け放たれ、月明かりが部屋をぼんやりと照らし出していた。 夜の虫たちが静かに鳴いている。 生暖かい夜風が微かに俺の身体を掠め、通り抜けていく。 ベッドの端を僅かに傾かせているのが誰なのかは、目を遣らずともわかっていた。 プシュッっと空気が勢いよく抜ける音がして、夜の訪問者たる彼の喉が、液体を流し込まれてゴクリと鳴る。 俺は、頬に押し付けられた缶ビールを手に取り、ゆっくり身を起こすと、その缶はそのままに、彼の手の中から奪い取ったビールを口にした。 俺がそれを一気に飲み干す様を、特に不満気でもなく彼は見ていたのだが、目を合わせると何も言わずに前を向き視線を逸らせた。 肩に手をかけ、少し上身をこちらに向かせて、唇の端に口付ける。 彼は目を閉じる。 触れるか触れないかの距離で唇の上をなぞるように移動し、反対側の頬に口付け、耳の付け根に口付け、舌を尖らせて耳の中に入れると、少しだけ逃げるように身を引いた。 肩に置いた手を彼の後頭部に回し、柔らかい髪の中に手を入れて掴み、軽く引っ張って顔を上向かせる。 そうして少し開いた口元を塞ぐように、自らの唇を重ねる。 真夜中の静寂を乱す卑猥な音を立てて、何度も角度を変えながら、俺たちは長いことキスを貪りあった。 俺の手が彼のシャツをたくし上げ、その肌に直に触れようとしていたときだった。 ふいに「ふぅ…」と深く息をついて、彼が俺の片口に頭を乗せた。 「なんか…久しぶり」 「何が」 「お前とするの」 そりゃあんたは、振られて傷ついたときにしか俺のとこに来ないからね。 恋は50m走でダッシュが基本なあんただから、それでも結構頻繁にこうしていると思うけど。 そうだね、今回はいつもより長かったかもしれない。 初めてセックスしたのはもうずっと昔だけど、この関係は変わらない。 そういうのが、あんたは安心できるんだと、わかってはいるつもりだ。 だから俺は、いつまでも変わらずにいようと思っている。 ただ、あんたが帰ってくるのを待ってるだけなんだけどね。 でも、今みたいに、ため息というのじゃなくて、心からの安堵を得て思わず漏れた…みたいな、そんな息をつかれると、いつもと違うあんたを見せられたりすると、少し期待してしまう。 変わることも、あるのかな…なんて。 でもそれは、悲しいことかもしれないんだ。 ----   [[成就しない片想い>7-819]] ----

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