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お前は幸せになれば良い。 ---- 「お前、何やってんの?」 金曜の夜。強か酔って帰ると、アパートの部屋の前に後輩の須藤が立っていた。 飲み終わったコーヒーの缶にタバコを捻り潰し、立ち上がる。 何が面白くないのか、たいそう不機嫌な面構えだ。 「飲んでたんですか」 「来るなんて聞いてなかったからな」 「誰と」 「誰でもいいだろ。それよりお前、こんなとこいていいのか?」 「いけませんか?」 こいつは明日、結婚する。 俺が今夜、飲まずにいられなかった理由である。 「今日中に伝えておきたいことがあって」 ドアの前から須藤をどかし、鍵を探して鞄の中を掻きまわす。 酔いの回った頭も手先も言うことを聞かず、鞄の中身がいくつか零れ落ちた。 スッと目の前に影が落ちたと思うと、須藤が俺のポケットから鍵を取り出していた。 身体を抱え込むように反対側に手を回したので、思わぬ顔の近さに、俺は赤面した。 「何?伝えたいことって」 動揺を覚られまいと、鍵を奪い取り、急いて鍵穴に差し込むがうまくいかない。 古いアパートだからか、この鍵はいつも開けづらい。 「明日の披露宴で、先輩にコメントもらうことになってるんで、考えといて下さい」 「は?急になんだよ。聞いてない」 「あいつは内緒でって言ったんだけど、先輩こういうの苦手だから」 「苦手だよ、知ってるなら勘弁してくれ」 「二人のキューピットなんだから絶対…だそうです」 ガチャガチャと半ば力任せに鍵を回していると、そっと手を重ねられた。 「壊れますよ」 耳元で聞こえた声に、一瞬で身体が強張る。 重ねられた手が、俺の手を握り、鍵を一度引き抜かせ、再度差し込んでゆっくりと回す。 カチッと軽い音を立てて、容易く鍵は開いた。 手の甲に、そして背中に感じられる体温が、俺の目頭までも熱くする。 自ら手放した、けれど今も変わらず愛しい温もり。 正直、今夜だけは会いたくなかった。 今夜を乗り越えられれば、明日から笑って二人を見守ってゆく自信があったのだ。 …いや、まだ堪えられるはずだ。自分が望んで指し示した道なのだから。 「…離せ」 ようやくしぼり出した声は、しかし掠れて、須藤には届かなかったのだと思う。 俺の後ろから伸びた腕がドアを開ける。 そのまま押し込まれるように部屋へ入れられる。 乱暴にドアが閉まる音と同時に、俺はきつく抱きしめられていた。 悲鳴に近い声で、俺は須藤の名を呼んだ。 もがいて逃げようとするが力で適わないことはわかっている。 須藤の手が、明確な意志を持って俺の身体を弄り始める。 「やめっ…」 俺は何とか身を捩って身体の向きを変え、その手から逃れようとした。 向き合う形になって初めて見た須藤の目は、その行為とは裏腹に、やけに冷めて見えた。 冷たい眼差しに射止められ、逃げることを忘れた俺に、今度は乾いた言葉が向けられる。 「全部あんたの言う通りにしてきたんだ。最後くらい俺の言うことも聞いてくださいよ」 そのとき初めて思った。 俺は、間違っていたのかもしれない。 「最後にもう一回やらせてよ、先輩」 感情のない声に涙が出た。 ----   [[お前は幸せになれば良い。>7-679-1]] ----
お前は幸せになれば良い。 ---- 「お前、何やってんの?」 金曜の夜。強か酔って帰ると、アパートの部屋の前に後輩の須藤が立っていた。 飲み終わったコーヒーの缶にタバコを捻り潰し、立ち上がる。 何が面白くないのか、たいそう不機嫌な面構えだ。 「飲んでたんですか」 「来るなんて聞いてなかったからな」 「誰と」 「誰でもいいだろ。それよりお前、こんなとこいていいのか?」 「いけませんか?」 こいつは明日、結婚する。 俺が今夜、飲まずにいられなかった理由である。 「今日中に伝えておきたいことがあって」 ドアの前から須藤をどかし、鍵を探して鞄の中を掻きまわす。 酔いの回った頭も手先も言うことを聞かず、鞄の中身がいくつか零れ落ちた。 スッと目の前に影が落ちたと思うと、須藤が俺のポケットから鍵を取り出していた。 身体を抱え込むように反対側に手を回したので、思わぬ顔の近さに、俺は赤面した。 「何?伝えたいことって」 動揺を覚られまいと、鍵を奪い取り、急いて鍵穴に差し込むがうまくいかない。 古いアパートだからか、この鍵はいつも開けづらい。 「明日の披露宴で、先輩にコメントもらうことになってるんで、考えといて下さい」 「は?急になんだよ。聞いてない」 「あいつは内緒でって言ったんだけど、先輩こういうの苦手だから」 「苦手だよ、知ってるなら勘弁してくれ」 「二人のキューピットなんだから絶対…だそうです」 ガチャガチャと半ば力任せに鍵を回していると、そっと手を重ねられた。 「壊れますよ」 耳元で聞こえた声に、一瞬で身体が強張る。 重ねられた手が、俺の手を握り、鍵を一度引き抜かせ、再度差し込んでゆっくりと回す。 カチッと軽い音を立てて、容易く鍵は開いた。 手の甲に、そして背中に感じられる体温が、俺の目頭までも熱くする。 自ら手放した、けれど今も変わらず愛しい温もり。 正直、今夜だけは会いたくなかった。 今夜を乗り越えられれば、明日から笑って二人を見守ってゆく自信があったのだ。 …いや、まだ堪えられるはずだ。自分が望んで指し示した道なのだから。 「…離せ」 ようやくしぼり出した声は、しかし掠れて、須藤には届かなかったのだと思う。 俺の後ろから伸びた腕がドアを開ける。 そのまま押し込まれるように部屋へ入れられる。 乱暴にドアが閉まる音と同時に、俺はきつく抱きしめられていた。 悲鳴に近い声で、俺は須藤の名を呼んだ。 もがいて逃げようとするが力で適わないことはわかっている。 須藤の手が、明確な意志を持って俺の身体を弄り始める。 「やめっ…」 俺は何とか身を捩って身体の向きを変え、その手から逃れようとした。 向き合う形になって初めて見た須藤の目は、その行為とは裏腹に、やけに冷めて見えた。 冷たい眼差しに射止められ、逃げることを忘れた俺に、今度は乾いた言葉が向けられる。 「全部あんたの言う通りにしてきたんだ。最後くらい俺の言うことも聞いてくださいよ」 そのとき初めて思った。 俺は、間違っていたのかもしれない。 「最後にもう一回やらせてよ、先輩」 感情のない声に涙が出た。 ----   [[受→攻フェラと攻→受フェラ>7-689]] ----

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