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かっこいいナンパ
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曰く、雑誌にだまされたのだそうだ。
彼曰く、これが礼儀なのだと雑誌に書かれていたそうなのだ。
つまり彼はホモで、目覚めたてのホモで、衆道の礼儀として、
初心者なりに、カタギと間違われないための礼儀として、
聞いたままにアロハシャツを着、サングラスをかけ、
出来れば髪も染めたいがちょっと照れるのでせめて刈り上げ、
万全を期して初夏のナンパに臨んだのだそうだ。
ところがいざフタを開けてみれば、万全どころか、シーズンを
外してキャンプ地はガラガラ、ヤブ蚊はブンブン。
虫を払いつつ川面に出てきたものの、わずかに存在した、
哀愁漂う釣り客に「ひぃっヤクザ!」と怯えた声を出され、
(この時点で雑誌にだまされたと気付いたそうだ)
やむなく彼は、今度は人気のない上流へと向かったのだ。
途中で別に好みの男を見つけたものの、さすがにパパママボクの
一家団欒を乱す気にもなれず、自殺志願と思われることもない
能天気なシャツに感謝しつつさらに岩場を越え、そこでお互い何を
間違えたのか、溺れる子犬に出くわしたとか。
曰く、幸せは歩いて探すタイプなので、守りに入らず迷わず
飛び込み、子犬をつかんだその後に、自分は鋼の肉体を持つ男、
つまりカナヅチであったことに気付き、さらなる運命の激流に
翻弄されたのだそうだ。口も鼻も胸も水でいっぱいにして、
ただ、もがいてもがいて、抱いた子犬の温もりにすがり、二人で
なら怖くないね、と諦めかけたその時、曰く、光が見えたらしい。
実際、水面に光ったそれはオレの垂らした釣り針だったわけだが。
彼にとっては救いの使者に他ならず、襟首に引っかかった釣り針が
神の御手に思えたとか何とか。言わばこれは導きであり、決して
オレの川釣りを邪魔する意図はなかったとのこと。
「つまり、運命なんですよ」
週末の息抜きをぶち壊しにしてくれたアロハ男は、何の因果か
リールを巻いた先にくっついてきたという重々しい事実をオレが必死で
受けとめようとしている間に立て板に水と喋りまくり、最終的には
紫色の唇でそうほざき、この南国男は、防寒ブランケットを脱ぎ捨て、
胸元からニョイ、としおれた薔薇を一輪取り出し、くちづけを軽く落として、
オレに差し出してきやがった。
「アナタの瞳に、恋をしました」
ああ、こいつをどうするべきか。
傍らで子犬がひとつ、くしゃんと鳴いた。
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[[お前は幸せになれば良い。>7-679]]
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