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本当にそれでいいの?
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また、こいつはそれだけを問う。もう何度目のことだろうか。
ずっとずっと、物心ついたときから既に無二の存在だったこいつ。幼馴染兼親友から、紆余曲折あって恋人に昇格して、更にそこから十余年経った。その長いが一瞬だった年表の、いつごろあたりだったろうか? 喧嘩だとか、俺が癇癪起こしたときだとかに必ず出てくる言葉が出来た。
本気でそう思ってるなら、俺はシュウには逆らわないよ。
そんな感じの前置きがあって、後はいつも同じ言葉。
ねえ、どうなの? と続けられると、何故かいつも逆らえなくなってしまう、魔法の言葉。
あるときは、怒りながら。
あるときは、微笑みながら。
泣きながら、無表情で、歌うように……感情のバリエーションは色々あったが、出てくる言葉はいつも同じだった。同じで良かった。それだけで、充分だったのだから。
「なあ、でもさ、そろそろ限界だと思うんだ。俺も、お前も……いくら晩婚化だからって、生涯独身が増えてるからって……そんな理由じゃ、切り抜けられないだろ。それに、なかなか良さそうな女性じゃないか。お前の……見合いの相手」
だから別れようと、手を変え品を変え、俺は何度こいつを諭そうとしただろう。付き合い始めて間もない頃から、今に至るまで。かなりの回数に上るはずだ。でも、こいつは折れない。また、あの言葉を繰り返す。
「シュウはさ、本気でそう思ってるんだ?」
「良介、俺だって、お前が一番だよ。お前が好きだ。お前以外誰も要らないよ。けれど、その見合い話の出所はお前の両親だろ。お前の両親は、お前がちゃんと女と結婚することを望んでるんだよ」
俺の親と俺は別物だよ。ましてやシュウはもっとだろ?
ねえ、シュウ。
「 」
なあ、知ってるか? 俺はいつも、お前のその言葉を待ってるんだ。
お前は俺にいろんな言葉を寄越してくれるけど、どんな熱っぽい告白よりも、俺はその言葉を望んでる。
真っ直ぐな言葉に隠された、歪んでしまいそうなくらい切羽詰まったお前の心が見えるから。
「いいわけないだろ」
俺の返事にほころぶお前の顔が、愛しくてならないから。
お前がその言葉を使うように仕向けて、お前が俺に縛られるように仕向けて。お前は俺を悪人だと思うだろうか。俺が悪人だと知って尚俺を好いてくれるだろうか。
お前のそれが聞きたいためだけに、俺はお前の世界を引っ掻き回す。お前がそれを言ってくれる限り、きっとずっと繰り返す。
その言葉に縛られているのは、俺のほうだ。
このどす黒い感情を全部お前にぶちまけたら、きっとお前は繰り返すだろう。
本当にそれでいいの? と。
俺だけに、向けて。幾重にも、縛り付けるように。
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[[美術室×音楽室>7-549]]
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