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愛するが故に別れる ----  あと、二時間。二時間もすれば、今日が終わる。  今日という、約束の日が終わる。  あいつは来ない。まだ、来ない。……きっと、来ない。 「専門学校行ってさ、美容師になりたいんだよ俺」  教員として採用された途端に押し付けられたあいつは、良く言えば今風のファッションセンスに基づいた、悪く言えば昔の科学者コントのオチみたいな、ツンツン爆発頭の生徒だった。外見通りに成績もよろしくなく、中身は空っぽなのか……そういう印象しか持っていなかったそいつから、そんな熱意ある言葉が出てくるとは思わなかった。  それにしたって試験に受かるだけの学力が必要だと言うと、猛然と勉強してグッと成績を上昇させた生徒。  良い意味で、目が離せない奴だった。  外見は斜、中身はこれ以上なく真っ直ぐ。  気付けば既に惚れていて、でも幸運なことに、あいつも俺を好いてくれた。  でも、幸運なのはそこまで。  俺とあいつは、教師と生徒で、男同士だったのだから。  抱きしめ合い、キスし、こっそり学校から離れたところまで行ってデートして。  けれどいつも、そこまでだった。それ以上進んではいけなかったから。本当はそこまで進んでもいけないのだから。  あんまり幸せすぎてさ、と前置きして。 「俺たちこのまま付き合ってたら……お互い、駄目になっちゃうかもね?」  んー、お前がそういうなら、そうかもしれねーな……という返答に泣きそうになった。  たとえ駄目になっても、一緒にいたかった。あいつさえ隣にいれば、どんなに飢えていたって幸せだと思っていたから。  けれど、あいつの夢を摘み取ることなんて、出来なかった。  世間は冷酷だ。もしこの関係が周りに露呈したら? あいつを好奇の目に晒すことなんて出来るか?  だから別れた。誰よりも大切だから、手放した。あいつには飛び立つべき空があるのだから。  振り向かなくても良いように、思わせぶりな噂すら流して。  最後に取り付けた約束は、叶わなくて良いとすら思った。誰よりも幸せになって欲しいと思う気持ちで、想いを封じ込めて。  そろそろ一時間を切る。今日が終わる。あいつとの関係も、この沈黙をもって終わる。  愛していたよと呟くと同時に、音もなく雨が降ってくる。土の匂いが濃くなっていく。  うつむいた睫毛に水滴がかかった。  その水滴が、きらきらと耀き出したのは何故だろう?  顔を上げると、忘れられなかったエンジン音が近づいてきた。あんなに乗ってくるなと注意したのに。あの時より四年分古ぼけたバイクが。  馬鹿、卒業したからって、騒がしくて迷惑じゃないか。  ここは真夜中の学校なんだぞ。 ----   [[魚座A型×牡牛座O型>7-399]] ----

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