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「お腹すいた」
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三日連続で水のみの生活だ。
よくテレビ番組で「一ヶ月で一万円生活!」なんてやってるけど、
俺のように水道代だけかけて、一週間に四日(それも一食ペース)食えるか食えないかの生活をしていれば
余裕で達成できるのではないだろうか。
すぐ近くで列車の走る音が響き渡る。
家賃一月三万のアパートはその大きい音に驚いたかのようにがたがた揺れた。
田舎にはもう二年くらい帰っていないし、親と連絡を取ったのも半年前になる。
身体を汚い畳の上に転ばせ、天井を睨んだ。
故郷には何があったっけ?
青くて澄んだ空と静かな夜と、この季節になるとそこらじゅうの農家の畑に野菜が実った。
子供の頃はよく近所のおっさんにトマトをおやつ代わりとして一つ貰った。
そのトマトは村でも一番と言われたくらい、真っ赤でつややかで、熟れていて、かじると大量の汁が顎を伝って落ちた。
また暑い空の下で食うと格別に上手かったなあ。おっさん、わざわざ冷やしてくれてたし。
もう一度田舎に帰った時にでも食べさせてもらいたい。
天井を見ながらおっさんのトマトに思いを馳せていたが、俺はふと思い出した。
「あ、」
でもそのおっさんは俺が中学に上がった頃に死んじゃったんだっけ・・・・。
じゃあもう誰も俺にトマトを恵んでくれる人はいないんだな。
やばい 目の前が霞んできた。
そろそろ死ぬかも。
目を閉じた。
耳の奥でドアが激しく叩かれる音を聞いた。
はい、ともいいえとも答えないうちに勝手にドアを開けて入ってきた。
「相変わらずだなあ」
白い歯でにっと嫌味の無い笑顔でずかずか上がりこんできた人物は、
同じ大学に通っていた、二つ年上の先輩だった。
先輩は物凄く男らしい人で、見た目が綺麗とか決してそういう訳では無いんだけど
何事にも超積極的で自分がやると決めた事は全力でやるタイプ。
大学では文学系を専攻してたけど、去年卒業してからは就職したとかしてないとか全然行き先を聞いていなかった。
しょぼくれた俺とこの輝いた先輩の関係なんてそれくらい薄いものだった。
ただ一度、部屋に入れて酒盛りをした事はあったけど。何を話したかなんて覚えていない。
あまりにも意外な来客に驚きはしたものの、さすがに死に目に近かった俺は表情を動かせず、ただ口だけを金魚のようにパクパクさせて言った。
「せ、んぱい」
「おう、やつれてんなぁ。いやな、今から田舎帰ろうかと思って。まだお盆遠いけど」
「せんぱいー」
「ん?なんだ」
「それ・・・・・なんですか?」
俺と対照的に先輩のあまりの活発さ加減に押されながら、少々震えた指で先輩の持つビニール袋を指した。
半透明な膜にうっすら見えている赤くてまるくて大きいもの。
期待が膨らみすぎて、はずれた時が怖い。
「今のお前には現金より欲しい物」
にやにや笑いながら先輩は取り出した。
「じゃじゃーーん!俺の田舎から送ってきたトマt・・・・!!」
「おっさーーーん!!」
気付くと、俺は涙を流しながら先輩に熱いキスをかましてしまっていた。
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[[口紅>7-959]]
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