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ゲーマー
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大学に入って好きになった人は、背が高くて、スポーツマンで、頭も良くて、優しくて。
俳優の誰とかに似てるとかで、周りにいつも女の子がいて、楽しそうに話している。
俺ときたら、背は低いし、スポーツも勉強も苦手だし、人と話すのが苦手で。
おまけにゲイで、いつもいつも教室の隅っこで、彼を眺めることしかできない。
大学に友達らしい友達もいないので、俺は毎日毎日ゲームをしていた。
最近発売された対戦型のゲームで、ネット対戦ができるヤツだ。
毎日毎日俺は、顔も知らない誰かと戦っていた。
そんな俺に転機が訪れたのは、彼が教室に珍しく一人で入ってきて、バッグから
PSPを取り出した時だった。
もしかして…と思った。講義始まる直前だけれど、トイレに行くふりして、彼のPSP画面を
覗き見た。彼は、あの対戦ゲームをやっていた。
俺は、三日三晩悩んだ。
「一緒に遊ぼうよ」と言ってみたいけれど、彼は嫌じゃないだろうか。
いきなり通信対戦を申し込んだら、彼はどんな顔をするだろうか。
そして四日目の朝に、俺は校門の前で彼を待つことにした。
俺の性格では、どうシュミレーションしても、まともに話すことなんて無理だ。
だから、せめて「気持ち悪いけれどゲームが上手い変なヤツ」として、彼の記憶に残ろう。
気合を入れるために、指なしグローヴを手にはめた。
そして、彼が来た。
「勝負だ!」
いきなり現れてPSP片手に勝負を挑んだ俺に、彼はものすごくびっくりした顔をした。
運が悪いことに、彼の隣には、3人の女子がいた。
「え、やだ気持ち悪い」とか小声で言っているのが、聞こえる。
目をそらすな俺。がんばれ俺。
震えるひざをおさえながら、俺はPSPの電源を入れた。
彼はそれを見て、バッグからPSPを取り出し、電源を入れる。
クイッとメガネをあげる仕草が格好よすぎて、逆の意味でひざから力が抜けそうになった。
…対戦は、正直なところ、互角だった。
一戦目は何とか勝てたが、二戦目では彼と引き分けになり、判定で俺が負けしてしまった。
ネット対戦で何人もを屠った俺としたことが、彼の繰り出す、超早い連続技コンボにピヨりかけた。
しかし俺は必死で体勢を立て直し、彼に超必殺コンボを叩き込んだ。
親指の皮がむけそうなほど指に力が入った、渾身の一撃だった。
2-1で、俺は勝った。
「…何あの人、ゲームで超喜んでる。キモいんですけど…」
勝利に喜ぶ俺に、女の子の冷静なキツい一撃が入った。
しかし、俺はもう関係なかった。彼の記憶に、数日間だけかもしれないけれど、残るだろうから。
「…対戦ありがとう…」
ボソボソと俺は言って、走って去ろうとした。もうこれ以上、校門で彼に恥はかかせられない。
「いや、ちょっと待てよ! どこ行くつもりだ!
おいお前ら、ちょっとよそ行っておいてくれ。俺はちょっと大事な話があるから」
しかし、彼は、俺の肩をガシッとつかんで逃げられないようにした上で、女の子達を追い払ってしまった。
俺は間近の彼の気配に一杯一杯で、声も出せないほど真っ赤になって固まってしまった。
しかし彼は、そんな俺を気にしもせずに、もう一度PSPの電源を入れた。
「おい、もう一回対戦しろ」
「…は?」
「俺、負けず嫌いなんだ。だから、もう一回」
「はははははは はいい???」
「ぜひ、よろしく頼む。勝つまでやるから」
「ええええ」
「あと、お前、来月出る、KOFの新作は買うか? あっちなら、絶対俺の方がアーケードでやりこんでる
から、俺の圧勝だ。そっちでも再戦を要求させてくれ」
「え、あ、はい、でも、俺KOFは小学生からやりこんでて」
「俺もだ!」
その時、俺ははじめて、彼がコアなゲーマーだと悟った。
そしてその後の、本当に勝つまでやめない、という展開も。
数ヶ月後。
何百回目の対戦後に、彼にこう言われることになる。
「次、俺が勝ったら…俺と付き合え」
あぁ、ゲームの神様…。
俺は、無意識のうちに、開始と同時に超必コンボを叩き込む自分の指を呪った。
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[[恋が始まる直前>7-809]]
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