「7-609」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

7-609」(2011/04/17 (日) 11:13:19) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

その瞳に映るもの ----  咽喉の羽毛を震わせて、彼は耳に涼やかな声をあげた。 「チロ、リロ、リロ」  籠が置かれたテーブルの下、私は腹這いに寝そべり欠伸を漏らす。  彼の住居である籠の中、彼は飽きずに、窓から溢れる陽光に歌う。チロ、リロ、リロ。なんてうつくしい声だろう。上機嫌で、ゆっくり内側が白い巻き尾を揺らした。 「──ああ、今日も本当にきれいですね」  不意と彼の歌が途切れ、代わる甘い声が私の敏感な聴覚を擽った  閉じかけていた片目をちらりと開けて、彼の折れそうに華奢な体と、彼が見上げる窓を見やる。 「うん。本当にきれいだ」  射し込む光が眩しくて、瞬きながらゆっくりと返すと、彼は嬉しげに「でしょう」と首を傾げた。  彼はいつも、飽かずに窓を眺めている。  生まれた落ちた瞬間から、彼の世界は小さな籠と、そこからみえる窓だけだった。 「あなたが教えてくれたんですよね。あれは“ソラ”と呼ぶのだと」  そうだったねと、答えて私は顔を上げた。 「きみが教えてくれたんだよ。空はたくさんの光が踊っていると」  私には自慢の耳がある。何でも嗅ぎわける鼻がある。しかし、彼に教わった空の“色”を、私はみる事はない。  それで良いのだと私は思う。  彼と私は、顔を見合わせて微かに笑った。 「さあ、またきみの歌を聴かせておくれ。空がどんなにきれいなのか」  きみの瞳に映るものを、私は誰よりも傍で聴いていよう。  チロ、リロ、リロ。 「なんてきれいなんだろう。何て眩しい色だろう。世界はなんてきれいなんだ」  再び紡がれだした彼の歌が、私の世界を彩っていく。  私は、尾を振りながら目蓋を落とした。 ----   [[ヒトメボレ×ヒトデナシ>7-619]] ----
その瞳に映るもの ----  咽喉の羽毛を震わせて、彼は耳に涼やかな声をあげた。 「チロ、リロ、リロ」  籠が置かれたテーブルの下、私は腹這いに寝そべり欠伸を漏らす。  彼の住居である籠の中、彼は飽きずに、窓から溢れる陽光に歌う。チロ、リロ、リロ。なんてうつくしい声だろう。上機嫌で、ゆっくり内側が白い巻き尾を揺らした。 「──ああ、今日も本当にきれいですね」  不意と彼の歌が途切れ、代わる甘い声が私の敏感な聴覚を擽った  閉じかけていた片目をちらりと開けて、彼の折れそうに華奢な体と、彼が見上げる窓を見やる。 「うん。本当にきれいだ」  射し込む光が眩しくて、瞬きながらゆっくりと返すと、彼は嬉しげに「でしょう」と首を傾げた。  彼はいつも、飽かずに窓を眺めている。  生まれた落ちた瞬間から、彼の世界は小さな籠と、そこからみえる窓だけだった。 「あなたが教えてくれたんですよね。あれは“ソラ”と呼ぶのだと」  そうだったねと、答えて私は顔を上げた。 「きみが教えてくれたんだよ。空はたくさんの光が踊っていると」  私には自慢の耳がある。何でも嗅ぎわける鼻がある。しかし、彼に教わった空の“色”を、私はみる事はない。  それで良いのだと私は思う。  彼と私は、顔を見合わせて微かに笑った。 「さあ、またきみの歌を聴かせておくれ。空がどんなにきれいなのか」  きみの瞳に映るものを、私は誰よりも傍で聴いていよう。  チロ、リロ、リロ。 「なんてきれいなんだろう。何て眩しい色だろう。世界はなんてきれいなんだ」  再び紡がれだした彼の歌が、私の世界を彩っていく。  私は、尾を振りながら目蓋を落とした。 ----   [[その瞳に映るもの>7-609-1]] ----

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: