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欠乏症 ---- 正樹は病室の白いベッドの上に、白い顔をして横たわっていた。 看護師に「彼は何の病気なのか」と聞いても、「私の口からは・・・」と言って首を横に振るだけだった。 正樹は病室に入った俺を見ると、白い顔には不釣合いな赤い唇を動かし、言った。 「よお。おひさ、タキチ」 懐かしい呼び名。こいつ以外は使う事のない、間の抜けたあだ名。 「・・・タキチと呼ぶな。タキチと呼ぶくらいなら苗字で呼んでくれ」 照れ隠しの発言だったと、自分でも自覚している。 呼ばれるのが嬉しい反面、気恥ずかしくもある。こいつだけが使う、俺の呼び名。 「どうしたんだ。何の病気だ?」 「んー。 『欠乏症』だってさ」 「何が欠乏したんだ。 お前、相変わらず不規則な食生活を送っていたのか?」 大学生の頃のこいつは、毎日三食をインスタントで済ましていた。 さすがにあの食生活は心配だったから、たまに手料理を差し入れてやった事もある。 まさか、またあのような生活を送っていたというのだろうか。 「栄養の欠乏じゃあないさ」 「? じゃあ、何が欠乏したんだ」 聞くと、あいつは手招きをして「耳を貸せ」と言ってきた。 言われたとおりに、耳を近づけてみた。 「俺が欠乏していたのはな お前とのキスさ」 何を言うんだ、と思う暇もなく、突然口付けをされた。 看護師が俺の後ろで小さい悲鳴をあげるのが聞こえる。 ・・・こいつが病人でなければ、殴ってやっていた所だ。 あいつの病気は、ある不治の死病だったと言う。 感染性は極めて薄い病気のため、ああして面会も許されていたらしい。 そのことを俺が知った時には、もうあいつは俺の手の届かない所へ行ってしまっていた。 出来ることなら、あの口付けのときに、俺にも病気が移ってしまえばよかったのに。 そうすれば、俺はあいつと同じ病気で、同じ時期に、同じ病原菌であいつと同じ所へ逝けたかもしれなかったのに。 今の俺はきっと、正樹と一緒にいる事のできる時間を欠乏している。 どんな医者でも治せない、不治の欠乏症。 ----   [[受をいじめるのが大好きな攻と、同性愛に抵抗もっているけれど攻のことが好きな受>7-569]] ----
欠乏症 ---- 正樹は病室の白いベッドの上に、白い顔をして横たわっていた。 看護師に「彼は何の病気なのか」と聞いても、「私の口からは・・・」と言って首を横に振るだけだった。 正樹は病室に入った俺を見ると、白い顔には不釣合いな赤い唇を動かし、言った。 「よお。おひさ、タキチ」 懐かしい呼び名。こいつ以外は使う事のない、間の抜けたあだ名。 「・・・タキチと呼ぶな。タキチと呼ぶくらいなら苗字で呼んでくれ」 照れ隠しの発言だったと、自分でも自覚している。 呼ばれるのが嬉しい反面、気恥ずかしくもある。こいつだけが使う、俺の呼び名。 「どうしたんだ。何の病気だ?」 「んー。 『欠乏症』だってさ」 「何が欠乏したんだ。 お前、相変わらず不規則な食生活を送っていたのか?」 大学生の頃のこいつは、毎日三食をインスタントで済ましていた。 さすがにあの食生活は心配だったから、たまに手料理を差し入れてやった事もある。 まさか、またあのような生活を送っていたというのだろうか。 「栄養の欠乏じゃあないさ」 「? じゃあ、何が欠乏したんだ」 聞くと、あいつは手招きをして「耳を貸せ」と言ってきた。 言われたとおりに、耳を近づけてみた。 「俺が欠乏していたのはな お前とのキスさ」 何を言うんだ、と思う暇もなく、突然口付けをされた。 看護師が俺の後ろで小さい悲鳴をあげるのが聞こえる。 …こいつが病人でなければ、殴ってやっていた所だ。 あいつの病気は、ある不治の死病だったと言う。 感染性は極めて薄い病気のため、ああして面会も許されていたらしい。 そのことを俺が知った時には、もうあいつは俺の手の届かない所へ行ってしまっていた。 出来ることなら、あの口付けのときに、俺にも病気が移ってしまえばよかったのに。 そうすれば、俺はあいつと同じ病気で、同じ時期に、同じ病原菌であいつと同じ所へ逝けたかもしれなかったのに。 今の俺はきっと、正樹と一緒にいる事のできる時間を欠乏している。 どんな医者でも治せない、不治の欠乏症。 ----   [[受をいじめるのが大好きな攻と、同性愛に抵抗もっているけれど攻のことが好きな受>7-569]] ----

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