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恋いぞつもりて淵となりぬる ---- ついにあいつが死んだと連絡があった。早朝のことだった。 くるしむことなく逝ったということで、それだけがせめてもの救いだろうか。 バイクを飛ばしながら、僕は病院へと急ぐ。最後に会ったのはいつだっけ。ああ、確かあいつの家族の代わりに ねまきの替えを届けてやったときだ。 のんきに笑いあえていたのに、あの時は。まさかこんなに早く別れが来てしまうなんて、思いもしなかったのに。 みんなはもう集まっていた。とは言ってもほんの数人だ。あいつ僕以外ほとんど友達なんていなかったから。 ねぐせも直さず、シャツのボタンを掛け違えたままの僕を見て、みんなは「みっともないぞ」と言って笑った。 よく見ると、誰も彼も真っ赤な目をしている。みんなはもうあいつのなきがらに立ち会ってきたそうだ。それまで リアルさのなかったあいつの死が、僕の中で何だか急にはっきりと形を持ったものになった。 お悔やみの言葉を家族の人たちにかけて、霊安室でさいごの別れをして。 つめたくなってしまった手から指先をそっと離して、暗い部屋を出ようとしたとき、 涙痕も消えないかれの母が、僕を呼び止めた。あいつから僕に遺言があると言う。僕はそれを黙って受け取った。 「恋ぞつもりて 淵となりぬる」 見た瞬間、あいつが何をこの言葉に託したのかすぐ理解した。趣味が和歌のあいつを爺臭いと僕はよく笑ったから。 なんて気障な奴。わざわざこんなけったいな告白を、しかもこんな今さらになって。 のこされた身にもなれって話だ。ずっと一緒にいたのだから、そういうことはもっと早く言ってほしかった。 がまんしていた涙がいよいよ堪えきれなくなって、僕は泣いた。 わかってた、ほんとはずっと前から。こんなことなら僕のほうから言ってやればよかったのに。 ――僕も、お前が好きだった。 ---- [[どういたしまして>7-259]] ----

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