「19-899」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

19-899」(2010/11/18 (木) 17:27:16) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

高校を卒業したら ---- 「俺さ、大学は東京にしようかと思ってるんだ」 無事高校3年に進級して、いよいよ大学受験が身近になった春、4月。 放課後、図書館で苦手な数式と格闘していた俺の対面で、英語のテキストをぱらぱらと斜め読みしながら、あいつが言った。 なんか余裕って感じでムカツク。 「へぇ、俺と一緒だ」 とは言っても俺とあいつの偏差値は天と地、とまでは行かなくてもスカイツリーと地上、程度には差がある。 ───勿論地上にいるのは俺の方だが。 だから目指す大学自体は違って当然だとしても、とりあえずその所在地自体は、東京で一致しているということだ。 俺にとって、先の言葉にそれ以上の意味はなかったのだけれど。 「そうか、一緒なんだ」 どこか嬉しそうにあいつはそう言って、相変わらず意味もなく繰り続けていたテキストをぱたりと閉じた。 「じゃあさ、大学受かったら」 「ん?」 「高校を卒業したら、東京で俺と一緒に暮さない?」 そんな風に言って、照れくさそうに笑って、ついでに返事もしていない俺に勝手にキスまでして、 「これ予約だから。ついでにキャンセル不可だから」 なんて頭はいいくせに、馬鹿みたいに嬉しそうにまた笑うから。 俺はすごく頑張ったんだ。それこそホントに死に物狂いに。 だってあいつは余裕で合格圏内だとしても、俺は相当頑張んないと、ちょっとマジにヤバい感じだったから。 あいつがキャンセル不可なんて、しょうもないこと言ったりするから、だから。 俺はものすごく頑張ったんだ。 それで季節は再びの春、3月。 志望大学の合格証書を手にした俺の隣に、あいつはいない。 頭はいいくせに、ホント馬鹿なんじゃねーの。 俺以外には誰にも見えない幻に姿を変えて、風に紛れて「合格おめでとう」なんて、そんなの誰が喜ぶんだ。 もしかして俺が泣いて喜ぶとでも思ってるのか? 悪いけど、俺は泣いたりしない、絶対に。 泣かない代わりに。 あいつの笑顔とか、低く囁く声とか、俺に触れる時に一瞬だけ躊躇する右手とか。 髪をかきあげる癖も、俺を振り返る仕草も、そういうの何もかも全部。 全部、絶対に忘れない。 高校を卒業しても。 あいつのいない、ひとりきりの遠い街でも。 初恋なんて、誰にとっても忘れられないものなんだからしょうがないだろ。 そう呟いたら幻のあいつはゆらりと揺れて、やっぱり馬鹿みたいに、嬉しそうに笑った。 ----   [[高校を卒業したら>19-899-1]] ----

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: