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着ぐるみ姫の恋 ---- ──嘘。 目の前で繰り広げられる非現実的な光景に、思わずそう呟きそうになった。 だが、着ぐるみバイトは無言が鉄則だ。 すんでのところでそれを思い出して、吐き出しかけた言葉をぐっと飲み込む。 ついでに、ひとつ深呼吸。 ちょっと汗くさくてよどんだ空気でも、少しは気持ちが落ち着いた。 それでもまだ、目の前の光景が信じられない。 「あの」川崎が、笑顔で着ぐるみと戯れているだなんて。 川崎といえば、泣く子も黙る……かどうかは知らないが、 強面と粗暴な言動を誰もがまず思い出すわけで。 そんな男が、小さな子を連れてデパートの屋上に現れて、 たかが着ぐるみに子供よりはしゃぐだなんて、誰が想像できるというんだ。 俺だって、人づてに聞いたらフカシ扱いしたに違いない。 「おお、こっちは白雪姫か! なあ握手して、握手!」 だから、誰にも言わない。 喜色満面で着ぐるみの俺に走り寄ってきたことも、 その笑顔を、不覚にもかわいいと思ってしまったことも。 ----  

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