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シーラカンス ---- 目の前で喋るアイツの顔をじっと見ていた。 よく動く口やなぁ。ノート見ながら、熱く語ってるなぁ。 そう思って酒を飲んでいたら、いつのまにか顔をものすごく近づけていた。 アイツと、目があう。「…何?」とアイツが聞く。 しばらくの沈黙。 アイツの目に、少し怯えがはいって、ふっと目をそらした。 俺は、その瞬間、アイツの唇にキスをした。 やわらかい感触。さっきまで喋っていたせいか、少し濡れている。 唇を離して、アイツの顔を観察した。アイツは、眉間にしわをよせて、俺を見ている。 「…どういうんや」とアイツがかすれた声で言った。 さっきまで、お前が熱心に喋っていた、テーブルの上のノートの絵が、視界に入った。 ヒレがたくさんついた魚。シーラカンスって言うてた。 シーラカンスを飼育したい。でも、捕獲したら、3日ぐらいで死んでしまうから 無理なんだって。すごく弱い魚なんだって。自分の状況が変わることに、臆病だから 死ぬのかもしれない、って。 「…お前、シーラカンスよりも勇気ある…?」 俺は、かすれた声でささやいた。 心なしか、アイツの顔が赤い気がして、さらに俺は口を開いた。 「なぁ…俺さ…」 そこで、アイツは、俺の肩を力いっぱい押した。 俺はうしろむきにコケて、しりもちをついた。 「…言わんといて…頼むから…」 アイツは下を向いたけれど、俺はもう一度立ち上がって、アイツの肩をつかんだ。 「俺、お前が好きやねんけれど、それに答えてくれる?」 アイツは、目に涙をためて俺を見た。 俺ら二人の状況が変わることに、お前、臆病にならんといてくれる…? ----   [[桜>5-969]] ----

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