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収録後 ---- 楽屋に入ると、彼は、グッタリと部屋の中央で寝転がっていた。 僕が「お疲れ様です」と挨拶して入ってきても、起き上がろうともしない。 まぁしょうがないか。2時間半の長い時間、一人で舞台の端から端まで 走り回って、頑張ったんだ。あんなにたくさんマスコミやお客さんを 集めて、力も入っていたのだろう。DVD収録もしていたから、ミスを してはいけない、と自分に言い聞かせていたのかもしれない。 僕はイスに座って、この後の予定をチェックした。頭に一応入っては いるが、あと何分間、彼を休ませてあげられるか、もう一度確認したい。 しかし、何度も確認した通り、あと15分後に、雑誌のインタビューが 入っていた。このまま5分寝かせて、その後、シャワー浴びて準備させて…。 そう考えた時、後ろでくぐもった声が響いた。 「なぁ…今日、どうやった…?」 畳にうつぶせになったまま、喋っているらしい。 「最高でした」 「最高か」 「はい。僕が今まで見た中で、本当に最高でした」 振り返ると、彼はいつのまにか、あぐらをかいて座っていた。 細い首をもたげて、こちらをまっすぐな目で見ている。 「ホンマ?」 「本心です」 僕が即答すると、安心したように目を細めた。 「…ほな、DVD買うてな。お前の金で。で、墓の下まで持ってって。  俺も、今日の舞台は改心の出来やったと思ってんねん」 僕も、つられて微笑んだ。 5年一緒だった、彼のマネージャーを務めるのも、明日で最後。 異動で、僕は来月から、マネージャー職ではなくなる。 舞台をかたくなに映像化しなかった彼が、今回の収録に応じてくれたのは、 もしかして、何度も映像化するようお願いしていた、僕への餞別かもしれない。 彼の言葉に、ちょっとうぬぼれそうになった。そして、涙がにじんだ。 「…さぁ、インタビューがこの後入ってますから、そろそろシャワー浴びて  準備してください」 僕は、涙を気づかれないように、わざと元気よく笑顔でそう言った。 「最後まで、人使い荒いな、お前は」 彼は、苦笑しながら立ち上がって、タオルを持ってドアを出て行こうとした。 「…ほんま、買ってな。アレは、お前のもんや」 ドアを出て行きごしに、小さくつぶやいたの、聞こえた。 「もちろん、買うに決まってるじゃないですか」という言葉は、明日のお別れの時に また言おう。そう思って、僕はドアに向かって、おじぎをした。涙がにじんだ。 ----   [[新たな職場で、懐かしい出会い>5-819]] ----

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